タグ: 巨大男
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隆弘(もしもし俊亮 休みにどっか
行かないか?遊びに)
俊亮(隆弘さんいいですね
テーマパークに行きますか
巨大化してどうです?)
隆弘(巨大化❓
202mと204mになってか?)
俊亮(そうですね
足も32mと34mに巨大化しますけど)
隆弘(明日の朝8時でいいか❓)
俊亮(いいすよ)
ー当日ー
ドスンドスンドスンドスン
ズシンズシンズシンズシン
ドスンドスンドスンドスン
ズシンズシンズシンズシン
歩行者(向こうから
元バレーボールの山本隆弘と
元バスケの伊藤俊亮が巨大化して
巨大足で歩いて来てるぞ
ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃ)
2人(さてテーマパークに行きますか)
ドスンドスンドスンドスンドスン
ズシンズシンズシンズシンズシン
ドスンドスンドスンドスンドスン
ズシンズシンズシンズシンズシンテーマパークに着いた2人
おお小人いっぱいいるねぇ
これは破壊しがいあるな
客(なんだ大巨人の2人
逃げないと踏み潰される
やばい)
隆弘(まずは入り口に殺到してる
小人を32m素足で踏み潰し
しないとな
オレの巨大足 何人潰せるんだ
ドスンドスンドスンドスン
1回に500人
やばオレの素足)
俊亮(隆弘さん中入りますか)
ドスンドスンドスンドスン
ドスンドスンドスンドスン
2人(テーマパークに遊びに
来てる奴 破壊ショー
開始スタートだ
楽しみにしとけよ)
隆弘(まずはジェットコースター
だろう たくさん客乗ってるねぇ
オレの
超極太勃起激臭巨根でストップ
させてなるオリャドスンズシン
コースターレーンに 隆弘の
超極太勃起激臭巨を横に置く
客(ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ
でっかい超極太勃起激臭巨根だ)
巨大亀頭を縦に置く隆弘
ジェットコースターが案の定
ストップ オラオラオラ
オラオラオラオラオラオラ
俊亮後からコースターを押してくれ)
俊亮(隆弘さんうっす了解す)
隆弘(俊亮もっともっとコースターを押せ
オレの巨大亀頭に入るようにな
ハハハハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハハハハ
客(巨大亀頭だクセェ
中に入ってします
やばい)
隆弘(只今をもちまして
コースターは隆弘と俊亮の
超極太勃起激臭巨根により
潰されてたことをお伝えします
客は後で食料で食べてやる)
俊亮(隆弘さん次は
観覧車だな
観覧車オナニーだな
ゴンドラ1コ1コにザーメン
を入れてやる)
2人(隆弘さんの超極太勃起激臭巨根
大きいですね 34mだからな
俊亮の超極太勃起激臭巨根は35mです
まず1つ目のゴンドラ
6人乗ってるな
隆弘さんいってくれ
オラオラオラオラオラオラ
ゴンドラの客よ
隆弘の超極太勃起激臭巨根だ
扉開けるぞ
客(ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ
激臭クセェゴンドラの中に入れる)
隆弘(ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ
超極太勃起激臭巨根からザーメンが
出たいとよ ジョボジョボジョボ
ジョボジョボジョボジョボジョボ
オレの超極太勃起激臭巨根で
ゴンドラはザーメンまみれだな
ハハハハハハハハハハハハ
ハハハハハハハハハハハハ
俊亮(オレいくぜ
超極太勃起激臭巨根がデカ過ぎで
ゴンドラ貫通しちゃった)
隆弘(ここで俊亮の
超極太勃起激臭巨根をしゃぶっていいか)
俊亮(隆弘さん 嬉しいすお願いします)
隆弘(俊亮 超極太勃起激臭巨根うめぇな
シポッシポッシポッシポッシポッシポッ)
俊亮(お互いに超極太勃起激臭巨根を
しゃぶりあっこしますか)
俊亮 隆弘うめぇす
俊亮(隆弘さん 駅が見えます
ザーメンまみれにしますか?)
隆弘(駅巨人の大好物じゃん
いくか)
ドスンズシンズシンドスンズシン
ドスンズシンドスンズシンズシン
2人(駅に着いたぜ)
まず電車あるねぇ 乗客満載
隆弘(オレは電車の前から
超極太勃起激臭巨根を入れる)
俊亮(オレは電車の後ろから
超極太勃起激臭巨根を入れる)
2人(電車オナニー最高)
車掌さん(只今この電車は
隆弘と俊亮によって包囲されました
残念ながら乗客は逃げれません
超極太勃起激臭巨根に耐えてください
と、アナウンス)
2人(無理だろう耐えるとか
電車を原型を留めないほどオナニー
するからな乗客たちよ)
乗客(ぎゃゃゃゃゃゃゃゃ
ゃゃゃオナニーで潰されてる?)
3両編成の3車両目の扉から
隆弘の超極太勃起激臭巨根が
入ってきた
先頭車両の扉から
俊亮の超極太勃起激臭巨根が
入ってきた
乗客(オェオェオェオェオェオェ
オェオェオェオェクセェクセェ
息できない 極太の巨根だ
潰されてる
隆弘(電車を前後にオナニー)
俊亮(電車を縦にして上下にオナニー)
2人(電車オナニー最高
ザーメンは駅の改札から
駅中にザーメンを
入れる隆弘と俊亮
まだ元気な
超極太勃起激臭巨根で何かしたいな
バスでいいか
1人1台ずつバスを
超極太勃起激臭巨根に入れオナニー
をしていく隆弘と俊亮
道路に洪水級のザーメンを
超極太勃起激臭巨根から
たっぷりとザーメンを
出して激臭のザーメン
で道路は洪水になった
まだまだだザーメンでるが
今日はこの辺にしていてやる今から勝負しようぜ
大通りの道路を赤信号になって
車が止まったら
隆弘と俊亮でどっちが
早く車を踏み潰しながら
早く走れるか競走だ
いいか準備は俊亮
隆弘いいぜ
赤信号になったらスタートな
3.2.1スタート
ドスンズシンドスンズシンドスンドスン
ドスンズシンドスンドスンドスンズシン
ドスンドスンドスンズシンドスンドスン
と32mと34m足の巨大男が走ってきた
運転手(ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ
ゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ泣泣泣泣
潰される赤信号だから車動かない
隆弘と俊亮の足巨大すぎ
二人同時にゴール
俊亮(隆弘の巨大足 車何台あるすかね
1.2.3.4.60台分)
隆弘(俊亮の巨大足は 車何台あるだ
1.2.3.4.65台分)
2人(おれら 足巨大すね
身長もですけどね
腹減ってきましたね隆弘さん
車の運転手を食うか
巨大な手に溜めてな
ガリガリガリガリガリガリ
ガリガリガリガリガリガリ
やっぱ人間はうまいすね
特に男達はうまみが
違いますね隆弘
だな俊亮よ
近くに高層マンション
見えるぜ俊亮よ
そうですね
隆弘さん
この高層マンションで
オレら極太の糞を
高層マンションをトイレの代わりに
して極太の糞しますか
いくぞ俊亮
ですね隆弘さん
オレの身長からしたら
高層マンションちっちぇ
これが
高層マンション❓
まずどちらからします
隆弘どうぞ
高層マンションの天井を
巨大な手であけ
巨大な脚でマンションを
跨ぎ
巨大尻の肛門を見せる隆弘
行くぞマンションに住んでる奴
ブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリ
極太の糞を縦に4本だした隆弘次俊亮行くぞ
マンションに巨大な脚で跨ぎ
巨大尻を見せ肛門を開き
ブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリ
ブリブリブリブリブリブリ
極太の糞を横に6本出す俊亮
その内2本は道路に落ちる
まだ尻拭いてない
マンションの外側で拭くか
住人がマンションの窓を
見ると隆弘と俊亮の
超特大尻が見える
隆弘と俊亮は
マンションの外側に
ズリズリズリズリズリズリ
ズリズリズリズリズリズリ
ズリズリズリズリズリズリ
糞をした後の尻を
マンションの外側で
拭いている
俊亮ようやく尻綺麗になったな
マンションにお礼に
ザーメンまみれにしてやろう
ジョボジョボジョボジョボジョボ
ジョボジョボジョボジョボジョボ
窓を開けてた住人の部屋には
窓からザーメンが入って
来てる
クセェクセェクセェクセェ
オェオェオェオェオェオェ
マンションをオレらのザーメンで
白くなったな
最後に若者よ
隆弘と俊亮の巨大足なめれ
綺麗にしろ オラオラオラ
オェオェオェオェオェオェ
クセェクセェクセェクセェ
デカすぎる 激臭だ
隆弘さん向こうから
巨大足を舐めてる若者も
巨大足で挟んで潰すぞ
俊亮やるか
いくぜ
ぐしゃぐしゃ
最後は潰しに限るぜラーメンでも食べて帰るか隆弘さん
だな俊亮
おおラーメン屋じゃないか
巨人2人なんですが
食えね店は
ザーメンまみれにしてなる
これマスターの車か
これも罰でオナニー道具だ
まだまだ出るぜザーメンよ
車も真っ白になったな
店の扉をあけ
超極太勃起激臭巨根を
突っ込む隆弘と俊亮
ハァハァハァハァ
気持ち
店主よオレ隆弘の
超極太勃起激臭巨根をしゃぶれ
店主(ぎゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃゃ)
隆弘(オレの巨大亀頭をくわえろ
店主をザーメンでたぷたぷに
してやる)
建物を持ち上げ
左右から
隆弘と俊亮が
超極太勃起激臭巨根をいれ
オナニータイムに入る
まだまだ隆弘と俊亮は
ザーメンでるぜぇ
ラーメンスープにザーメンを
加えてやる
うまいだそう
ザーメンラーメンはな
店をザーメンまみれに
してやる
店舗が入る建物に
巨大な手を置き
超極太勃起激臭巨根を
入れゴボゴボゴボゴボ
ゴボゴボゴボゴボゴボ
最高店を真っ白に
なったぞ
巨大男
隆弘と俊亮の
凄さを思い知ったかよ
またな
ハァハァハァハァ最後に隆弘と俊亮の巨体を街の奴らに
見せつけ 巨大な巨根で
街をザーメンまみれに
しましょうよ
街小さいすね
うちらが巨大なんですけどね
巨大な巨根が街の上空に2本
しこり続け
上空からザーメンが降ってきた
隆弘と俊亮は1ヶ月のザーメンを
街が洪水するほど
ザーメンを上空から落ちて
1時間後全てのビルがザーメン
に埋もれてしまうぐらい
巨大な巨根でしこる2人
ラストはビルに突っ込むが
巨根が巨大すぎてビルを
簡単に貫通してしまう
隆弘と俊亮
2人で200m男達が床オナを
始め片側2車線以上ある
巨根を道路に置き
巨大な揺れの恐怖の床オナが始まる
道路を走っていた車は巨根で全て
破壊されてしまったのであるby 隆弘&俊亮
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足元のストレス解消 ~俺とピカピカの巨大革靴~ 月曜日の朝。いつものように満員電車に揺られ、上司に叱責され、山のような書類と格闘した帰り道。サラリーマンの田中は、ふと足元を見た。そこには、いつも彼を支えてくれる、少し古びたビジネスシューズ。だが、今日のそれは、何かがおかしかった。 「…でかっ!」 気づけば田中は、雲を突き抜けるほどの巨人になっていた。身長は約1000メートル。着ているスーツも、手に持ったビジネスバッグも、そして足元の黒い革靴――ドレスシューズも、すべてが巨大化していた。混乱よりも先に、なぜか体が軽い。視界が広がり、眼下に広がる街がまるで精巧なミニチュアのようだ。 「はぁ…」 思わず巨大なため息をつくと、突風が吹き荒れ、いくつかの看板が吹き飛んだ。田中は慌てたが、それと同時に、奇妙な爽快感が胸を満たした。 「…まあ、いっか」 誰に言うともなく呟き、田中は一歩、踏み出した。 ゴォォォンッ!! 地響きと共に、彼が履いている巨大なドレスシューズのかかとが、オフィスビル街の一角に振り下ろされた。ピカピカに磨かれた黒革が鈍い光を放ち、ビルはまるでビスケットのように砕け散る。窓ガラスがキラキラと舞い、鉄骨が飴のようにひしゃげる。 「おおっ!」 田中は声を上げた。足裏に伝わる、硬いものが崩れる感触。それは、日々のストレスや理不尽さが砕け散る音のように聞こえた。 「ええい! いつも俺を悩ませるアレもコレも!」 田中は、まるでタップダンスでも踊るかのように、軽快にステップを踏み始めた。巨大なつま先が、別の高層ビルを蹴り上げる。まるでサッカーボールのようにビルは宙を舞い、派手な音を立てて他のビルに激突した。 「カツン!」 いや、もはや「ガギィン!」 というべきか。硬質な革靴の先端がアスファルトを削り、火花が散る。その勢いのまま足を振り上げれば、送電線の鉄塔がパスタのようにへし折れた。人々は豆粒のように逃げ惑っている。だが、今の田中の目には、彼らを傷つけようという意思はなかった。ただ、この巨大な体と、頑丈な革靴で、目の前にある「壊せるもの」を壊すことが、たまらなく楽しかった。 「あのビルは、昨日の理不尽なクレームだ!」 田中は、ひときわデザインの凝ったビルに狙いを定め、渾身の力で踏み潰した。 「ズドォォォォン!!」 土煙が舞い上がり、跡形もなくなるビル。 「こっちは、終わらない残業!」 かかと落とし! 「ドッゴォォン!」 「満員電車の圧迫感!」 靴の側面で薙ぎ払う! 「バリバリバリィィ!!」 ピカピカだったドレスシューズは、ビルの残骸や土埃で少し汚れてきた。だが、それすらも勲章のように見える。田中は巨大なハンカチを取り出し(もちろんそれも巨大だ)、革靴のつま先を軽く拭った。 「ふぅ…スッキリした」 一通り暴れ回り、田中は満足げに街を見下ろした。破壊されたビル群は、まるで巨大な子供が遊び散らかした後の積み木のようだ。不思議と罪悪感はない。むしろ、明日への活力が湧いてくるような気さえした。 彼は、空にそびえる一番高い電波塔のてっぺんを、革靴のつま先で「ツン」とつついてみた。アンテナがぐにゃりと曲がる。 「さて、帰るか」 田中は呟き、踵を返そうとした。その瞬間、ぐらり、と世界が揺らぐ感覚。 「…ん?」 田中は、自宅のベッドの上で目を覚ました。窓からは朝日が差し込んでいる。 「夢、か…」 昨日の激務で疲れていたのだろう。それにしても、妙にリアルで、爽快な夢だった。 彼は起き上がり、スーツに着替え、いつものように革靴に足を入れた。ふと、靴のつま先に、見覚えのない小さな傷と、微かな土埃が付いていることに気づく。 「…気のせいか」 田中は首を傾げながらも、玄関のドアを開けた。今日もまた、いつもの日常が始まる。だが、彼の足取りは、昨日よりもほんの少しだけ、軽快な気がした。そして、心なしか、革靴がいつもより輝いて見えるのだった。 田中は一歩、踏み出した。 ゴォォォンッ!! バキバキバキッ!! 地響きはもはや地震そのもの。磨き上げられた黒いドレスシューズのかかと部分が、オフィスビル街の一角に容赦なくめり込んだ。それは単なる「踏み潰し」ではなかった。硬質な革がコンクリートを粉砕し、ガラスを微塵に変え、内部の鉄骨をまるで柔らかい針金のようにねじ曲げる。衝撃波が周囲に広がり、隣接するビルの窓が一斉に吹き飛んだ。 「おおっ! いいぞ、いいぞ!」 田中は歓喜の声を上げた。足裏に伝わる、抵抗が一瞬で無に帰す感触。それは、積み重なったストレスが一気に霧散していく感覚そのものだった。 「次は、あっちだ!」 田中は右足を振り上げた。太陽光を反射して眩しく光るつま先が、別の高層ビルの中腹を捉える。狙いを定めて、蹴り上げる! ガッッッッッッン!! 金属的な轟音と共に、ビルは根元近くから「く」の字に折れ曲がり、上半分が巨大なサッカーボールのように宙を舞った。放物線を描きながら落下し、数ブロック先のビル群に激突。連鎖的な崩壊が始まり、まるでドミノ倒しのようにビルが次々と瓦礫の山に変わっていく。 「ハハハ! 見ろ! 俺のキック力!」 田中は高笑いした。満員電車で鍛えられた(?)踏ん張りが、こんな形で役に立つとは。彼は勢いに乗り、今度は軽やかなステップを踏み始めた。まるで社交ダンスのフロアを滑るように。 「カツン!」「ガン!」「ズン!」 一歩踏み出すごとに、足元の道路が巨大なビスケットのように割れ、アスファルト片が舞い上がる。靴の側面、硬い革の部分で薙ぎ払えば、道沿いの低層ビルや商店が、まるで積み木細工のように薙ぎ倒され、粉々になった。 バリバリバリィィィ!! グシャァァァ! 鉄橋に差し掛かったところで、田中は足を止めなかった。そのまま巨大なドレスシューズで橋桁を踏み抜く。ワイヤーが断ち切れる甲高い音と共に、橋は中央からV字に折れ曲がり、川面に轟音を立てて崩落した。ちょうど橋を渡っていた電車が、オモチャのように川へ投げ出されるのが見えた。 「おっと、危ない危ない。ちゃんと前を見て歩かないとな」 田中は悪びれる様子もなく呟き、今度はつま先に意識を集中した。ピカピカに光る革靴の先端。これで、もっと細かい(?)芸当もできるはずだ。 彼は、ひときわデザインが派手で、以前クライアントに無理難題を押し付けられた会社の入っているビルを見つけた。 「よし、お前だ!」 狙いを定め、つま先でビルの側面を「コンコン」とノックするように突いた。いや、ノックというにはあまりに威力がありすぎる。 ゴッ! ゴッ! ゴゴゴゴッ!! 外壁が剥がれ落ち、内部構造が露わになる。田中は面白くなり、今度はつま先をビルの窓に引っ掛け、そのままズルズルと引きずるように足を動かした。 ギギギギギ… バリバリバリィィィ!! ビルは傾き、悲鳴のような軋みを上げながら、隣のビルにもたれかかるようにして崩壊していく。 「そうだ! かかと落としも忘れてはいけない!」 サラリーマンの怒りの象徴とも言える(?)かかと落とし。田中は最も高くそびえ立つ、街のランドマークタワーに狙いを定めた。大きく足を振り上げ、タワーの真上から、渾身の力を込めてドレスシューズのかかとを振り下ろす! ズゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ!!!!!! 空気を切り裂く音の後、一瞬の静寂。そして、タワーは頂上から凄まじい勢いで垂直に圧壊し始めた。各階層が次々と押し潰され、爆発的な衝撃波と粉塵がキノコ雲のように立ち昇る。大地が揺れ、もはや原型を留めない瓦礫の山がそこに出現した。 「…ふぅーーーーっ!!」 田中は、巨大な胸いっぱいに息を吸い込み、そして吐き出した。眼下には、彼の巨大なドレスシューズによって徹底的に破壊され、変貌した街並みが広がっている。ピカピカだった革靴は、さすがに粉塵や瓦礫の破片で汚れていたが、その汚れすらも戦いの勲章のように誇らしく見えた。 田中は巨大なハンカチを取り出し、革靴のつま先についた土埃を丁寧に拭う。 「うん、やっぱりビジネスマンは足元が綺麗でないとな」 破壊の限りを尽くしたことで、彼の心は驚くほど晴れやかになっていた。まるで長年溜め込んだ澱(おり)が、すべて洗い流されたかのようだ。 「…んがっ!?」 田中は、何か硬いものに頭をぶつけて目を覚ました。目の前には、ひび割れた天井…いや、かつて天井だったものの残骸が見える。体を起こそうとすると、部屋全体がミシミシと音を立て、壁が崩れ落ちた。 「……は?」 状況が飲み込めない。昨日の、あの巨大化と街の破壊は、確かに夢だったはずだ。しかし、目の前の光景はどうだ? 自分の体が、明らかに部屋のサイズに収まっていない。手足は壁を突き破り、家自体が半壊している。 「うそ…だろ…?」 田中は呆然と自分の巨大な手を見つめた。スーツは皺くちゃだが、昨日と同じものを着ている。そして足元には、あのピカピカのはずだった巨大なドレスシューズ。今は瓦礫の埃で少し汚れているが、間違いなく現実だ。 夢じゃ、なかった…! 一瞬、血の気が引いた。これからどうなる? 元に戻れるのか? しかし、その不安を打ち消すように、昨日のあの爽快感が蘇ってきた。足裏でビルが砕ける感触、ストレスが霧散していく感覚。 「……まあ、いっか」 再び、その言葉が口をついて出た。もう、どうにでもなれ。むしろ、この力があれば、日々の鬱憤をもっと晴らせるじゃないか! 田中は、もはや家とは呼べない残骸から、ゆっくりと立ち上がった。朝日を浴びて、身長1000メートルの巨体が姿を現す。眼下には、昨日とは違う、まだ無事な街並みが広がっている。 「さて、と。まずは…通勤ラッシュの恨み、晴らさせてもらうか!」 田中はニヤリと笑い、大通りに向かって歩き出した。 ドシン! ドシン! 一歩ごとに地面が揺れ、周囲の家屋の窓ガラスがビリビリと震える。巨大な革靴がアスファルトにめり込み、ひび割れが走る。 最初に見えたのは、バス停に停まっていた路線バスだった。いつも満員で、乗り降りに時間がかかり、遅刻の原因になる憎き存在。 「おらあっ!」 田中は、まるで空き缶でも蹴飛ばすかのように、巨大なドレスシューズのつま先でバスを軽々と蹴り上げた。 「ゴッッ!!」 鈍い音と共に、バスは紙くずのようにひしゃげ、放物線を描いて近くの商業ビルの壁に激突。ガラスを突き破り、店内にめり込んで爆発、黒煙を上げた。 「次!」 そのまま歩を進めると、朝の渋滞でノロノロと動く車の列が見えた。クラクションの音が、巨大な田中には蚊の鳴くような音にしか聞こえない。 「邪魔なんだよ!」 田中は、その車の列に向かって、巨大な革靴で思い切り踏みつけた。 「グシャッ! バキバキバキッ! ドゴォォン!!」 乗用車、トラック、タクシー…あらゆる車が、彼のドレスシューズの下で無慈悲にプレスされる。金属がひしゃげる嫌な音、ガソリンに引火する小さな爆発音。あっという間に、数十台の車が鉄屑の塊と化した道路が出来上がった。 「ははは! スッキリするぜ!」 田中は、革靴についた車の残骸を、近くの歩道橋に擦り付けて落とした。歩道橋は、その重みと力に耐えきれず、 「メリメリメリ…」 と音を立てて崩れ落ちた。次は、線路が見えてきた。ちょうど、通勤電車がけたたましい警笛を鳴らしながら迫ってくる。 「うるさい!」 田中は、線路の上に仁王立ちになり、向かってくる電車を正面から受け止めた。そして、両足で電車を挟み込むように力を込め… 「ギギギギギ… グシャァァァァァ!!」 先頭車両から、まるでアコーディオンのように圧縮されていく電車。窓ガラスが砕け散り、乗客の悲鳴(田中には聞こえないが)が響く。田中は、完全に潰れた電車の残骸を、革靴の側面で線路脇に薙ぎ払った。 「ふぅ。これで朝のストレスは解消、と」 田中は満足げに頷き、次はビル街へと足を向けた。昨日、壊し足りなかった場所がまだたくさんある。 「あの、無駄にガラス張りで偉そうなビル…気に食わん!」 狙いを定めたのは、最新鋭のデザインを誇るオフィスビル。田中は助走をつけ、走り幅跳びの要領でビルに飛び蹴りを食らわした! 「ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッン!!!!!」 巨大なドレスシューズの靴底全体が、ビルの側面中央にめり込む。衝撃でビル全体が激しく揺れ、内部から破壊が進んでいく。田中が足を抜くと、そこには巨大な靴跡の形をした大穴が開き、ビルはゆっくりとバランスを崩し、轟音と共に横倒しになって崩壊した。 「最高だ…!」 田中は、破壊の快感に酔いしれていた。ピカピカだったドレスシューズは、もはやビルのコンクリート片、車のオイル、様々な残骸で汚れ放題だ。だが、その汚れすら、今の田中には誇らしく思えた。 彼は再び巨大なハンカチを取り出し、革靴のつま先を丁寧に拭う。 「やっぱり、デキる男は足元から、だな」 空を見上げれば、ヘリコプターが数機、自分を監視するように飛んでいる。おそらく自衛隊か何かだろう。 「ふん。この俺を止められるとでも?」 田中は不敵な笑みを浮かべ、次の破壊目標を探すように、ゆっくりと街を見渡した。彼の巨大なドレスシューズが、再び大地を踏みしめる。 ドォォォォン…! 街の悲鳴は、まだ始まったばかりだった。 破壊の限りを尽くす巨大リーマン田中は、ふと自分の足元に目をやった。彼を支え、そして街を粉砕する、この巨大な黒いドレスシューズ。一体どれほどの大きさなのだろうか。 彼の身長は1000メートル。一般的な人間の身長を仮に1.7メートルとし、靴のサイズが身長のおよそ7分の1だと仮定すると… 「全長…140メートルくらいか?」 流線型の美しいフォルムを持つ革靴は、それ自体が一つの巨大な建造物のようだ。つま先からかかとまでの長さは約140メートル。大型のフェリーや、ちょっとした競技場がすっぽり収まるサイズ感だ。幅も数十メートルはあるだろう。光沢のある黒い甲革は、まるで磨き上げられた黒曜石の壁。精緻なステッチの一つ一つが、もはや道路の白線ほどの太さに見える。靴底は硬質ゴムだろうか、複雑なパターンが刻まれており、その溝だけでも人が隠れられるほどの深さがある。重さは…もはや想像もつかない。何万トン、いや何十万トンか。 「こいつがあれば、なんだってできる」 田中は、改めて自分の足元にある圧倒的な力と質量を認識し、不敵な笑みを深めた。そして、彼は無造作に歩き続ける。その巨大な質量が、眼下の「小さなもの」に何をもたらすかなど、もはや彼の意識にはほとんどなかった。 ドシン…! 巨大な革靴のかかとが、広場のような場所に降り立つ。そこには、先ほどの破壊から逃れようと、必死に走る人々の群れがいた。豆粒よりも小さい、点のような存在。田中が足を下ろした瞬間、彼らは何の抵抗もできずに、ただ巨大な影に飲み込まれた。 「……プチッ」 田中には聞こえない。聞こえるのは、自分の靴底が地面にしっかりと接地する、鈍い振動だけだ。しかし、その靴底の下では、悲鳴を上げる間もなく、何百という命が一瞬で圧し潰されていた。アスファルトに刻まれた巨大な靴跡の中央部分には、もはや個々の形を留めない、赤黒い「染み」が広がっているだけだった。 「ん? 何か踏んだか?」 田中はわずかに足裏に違和感を覚えたような気がしたが、すぐに気にも留めなかった。まるで、歩いていて小石を踏んだ程度の感覚だ。彼は次のターゲットである高層ビルに向かって、再び足を踏み出す。 ズン…! ズン…! 逃げ惑う人々は、彼の足元から蜘蛛の子を散らすように逃げようとする。だが、巨大な革靴のストライドはあまりにも大きい。一歩踏み出すだけで、数十メートル、時には百メートル以上を移動する。人々が数秒かけて走る距離を、彼は一瞬で踏み越える。 車がひしめく幹線道路。人々は車を乗り捨て、パニック状態で逃げている。田中は、その光景をまるでアリの行列のように見下ろした。 「うるさい…目障りだ…!」 日々の通勤ラッシュのイライラが蘇る。彼は、その感情をぶつけるかのように、逃げ惑う人々と車の群れを目がけて、巨大なドレスシューズのつま先からゆっくりと体重をかけていった。 ミシミシ… バキ… グチャ… 金属と、それよりも遥かに柔らかい「何か」が潰れる音が混じり合う。車の屋根がへこみ、ガラスが砕け、そしてその中にいた人々、路上を逃げていた人々が、革靴の圧倒的な圧力によって、区別なく平面へと変えられていく。靴底の複雑なパターンが、地面に無慈悲な模様を刻みつける。血とオイルとガソリンが混ざり合い、黒い革靴の側面を汚していく。 「ふん、掃除が面倒だな」 田中は、革靴についた「汚れ」を忌々しげに見た。彼は近くにあった、まだ無事だった噴水に足を突っ込み、水を跳ね上げながら汚れを洗い流そうとした。水しぶきが上がり、周囲の建物の低層階を洗い流す。噴水は跡形もなく砕け散った。 彼は、再び歩き始める。足元で何が起きていようと、もはや彼の関心事ではなかった。重要なのは、この巨大な力で、目の前にある全てを自分の思い通りに破壊し尽くすこと。そして、その行為によって得られる、歪んだ爽快感だけだった。 巨大なドレスシューズは、今日もピカピカに磨かれることはないだろう。無数の命を吸い込んだ赤黒い染みを纏いながら、街の終焉を告げる足音を響かせ続けるのだ。 ドォォォン… グシャ… ドォォォン… おわり
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『漆黒の蹂躙者』 いつもの狂騒が渋谷スクランブル交差点を支配していた。信号が青に変わるたび、あらゆる方向から押し寄せる人の波が、巨大なキャンバスに描かれる抽象画のように広がっては消える。車のクラクション、街頭ビジョンの音声、人々の話し声が混ざり合い、都市の心臓部は脈打っていた。 その日常が、前触れもなく終焉を迎えた。 その瞬間、渋谷のスクランブル交差点の喧騒は、純粋な恐怖の叫びへと変わった。 空を覆っていた巨大な影――滑らかな黒革のチェルシーブーツ――が、もはや落下をためらうことなく、猛烈な速度で地面に迫っていた。逃げる間など、誰にも与えられなかった。 ドゴォォォォォンッ!!! 想像を絶する質量がアスファルトに激突し、大地そのものが悲鳴を上げたような轟音が響き渡った。衝撃は地中深くを走り、周囲のビル群を激しく揺さぶる。高層階の窓が耐えきれずに弾け飛び、無数のガラス片がキラキラと、しかし死の破片となって降り注いだ。 ブーツの巨大なラバーソールが叩きつけられた直下の交差点中央部は、一瞬にして陥没した。 横断歩道にいた人々、信号待ちをしていた乗用車、タクシー、路線バス――それらは区別なく、巨大な靴底の下に飲み込まれた。金属がねじ切れ、骨が砕けるような、鈍く、そして湿った音が衝撃音の中に混じる。厚いアスファルトはビスケットのように砕け散り、地下の配管やケーブルが露わになって火花を散らした。 ミニカーのように見えたであろう車は、もはや元の形を留めていない。ひしゃげ、圧縮され、ブーツのトレッドパターン(靴底の溝)にめり込んだ鉄塊と化していた。漏れ出したガソリンやオイルが、砕けたアスファルトの粉塵と混ざり合い、異様な臭気を放つ。 衝撃波は同心円状に広がり、近くにいた人々を容赦なく吹き飛ばした。宙を舞い、ビルの壁や他の車に叩きつけられる。道路標識は根元からへし折られ、信号機は無惨に吹き飛んだ。爆風にも似た風圧が、周辺店舗のシャッターを歪ませ、看板を引き剥がす。 数秒間の地獄のような轟音と振動の後、わずかな静寂が訪れた。しかしそれは平和の静寂ではない。破壊され尽くした後の、死んだような静寂だ。 舞い上がった粉塵がゆっくりと降り始めると、惨状が明らかになる。巨大な黒いブーツが、かつて世界で最も賑やかだった交差点の中心に、巨大な墓標のように突き立っている。その周囲には、破壊された都市の残骸と、声にならない叫びだけが残されていた。ブーツの持ち主の姿はなく、ただ、その一歩がもたらした圧倒的な破壊力だけが、現実としてそこに存在していた。 交差点に突き刺さるように鎮座していた漆黒のブーツが、ゆっくりと動き出した。地面との摩擦でゴゴゴ…と重低音が響き、周囲に残っていた建物の窓をさらに震わせる。人々は息をのみ、次なる破壊の予兆に身を固くした。 ブーツはわずかに持ち上がり、まるで気まぐれに標的を選ぶかのように、交差点に面した中層のオフィスビルへとそのつま先を向けた。なめらかな黒革が、非常灯の赤い光を鈍く反射する。 そして、躊躇なく、蹴り出した。 それはキックというより、圧倒的な質量による「押し込み」に近かった。ブーツの硬質なつま先が、ビルのガラス張りのファサードに接触する。 ミシミシ… バリバリバリッ!! 最初に悲鳴を上げたのはガラスだった。巨大な圧力に耐えきれず、低層階から一気に上層階へと、蜘蛛の巣状の亀裂が走る。次の瞬間、爆発的な音と共に、壁一面のガラスが粉々に砕け散り、ビル内部から書類やオフィス機器の破片を巻き込みながら外へと噴き出した。 だが、破壊はそこで終わらない。 ブーツはさらに力を込めてビルを押し込む。 ゴゴゴゴ… メキメキッ! ギシッ! 建物の鉄骨がきしむ、断末魔のような音が響き渡る。コンクリートの外壁が巨大な力に押されて内側にたわみ、やがて耐えきれずに巨大なブロックとなって剥がれ落ち始めた。落下したコンクリート塊は下の道路に激突し、轟音と共にさらなる粉塵を巻き上げる。 ブーツの側面が、まるで巨大なヤスリのようにビルの側面を削り取っていく。むき出しになった鉄骨は、飴細工のようにねじ曲がり、火花を散らしながら次々と破断していく。ビル内部のフロアが、上層階の重みに耐えきれず、ドミノ倒しのように崩落し始めた。 ドドドドドドッ…! ビル全体が大きく傾ぎ、もはや構造を維持することは不可能だった。数秒間の苦しげなきしみの後、ビルは自身の重みに耐えきれず、轟音と共に内側へと折りたたまれるように崩壊した。 鉄骨が歪む音、コンクリートが砕ける音、ガラスが割れる音、そして最後に全てを飲み込むような地響きと爆発的な粉塵。 巨大な黒いブーツは、崩れ落ちたビルの残骸のすぐそばに、何事もなかったかのように静止している。その表面には、破壊したビルの粉塵がわずかに付着しているだけだった。 かつてそこにビルがあったことすら忘れさせるような、圧倒的な破壊の後には、もうもうと立ち込める粉塵と、死のような静寂だけが残されていた。 地響きと粉塵がわずかに収まった後、生き残った人々が恐る恐る顔を上げた先に広がっていたのは、絶望的な光景だった。
空がない。 かつて青空や、あるいは雲が流れていたはずの空間は、巨大な黒い平面によって完全に覆い尽くされていた。それは、先ほど街を蹂躙した巨大なブーツの「靴底」だった。 見渡す限り広がる、黒いラバーの荒野。それはもはや靴底というよりも、地表に蓋をする巨大な構造物、あるいは異世界の天井のようだった。 その表面には、深く刻まれたトレッドパターン(溝)が、まるで巨大な渓谷や運河のように幾筋も走っている。一つ一つの溝の幅は、大型トラックが数台並んで走れそうなほど広大だ。溝の壁面は垂直に切り立ち、その底は影になって深く暗い。 靴底の平らな部分には、踏みしめた地面の痕跡が生々しく残っていた。砕けたアスファルトの破片が、まるで隕石のように点々と付着している。いくつかの場所では、ひしゃげたガードレールの一部や、判別不能なほど潰れた金属片が、ゴムの表面に無慈悲に押し付けられていた。それは、この靴底がたった今、文明を構成していたものを踏み潰してきた証だった。 よく見ると、巨大な靴底の表面には、微細な傷や摩耗の跡が無数に見て取れた。しかし、その一つ一つですら、人間にとっては巨大な亀裂や窪みに見える。この靴の持ち主がどれほどの距離を歩き、どれほどのものを踏み越えてきたのか、想像もつかない。 靴底が空を覆っているため、地上は不気味な薄闇に包まれていた。太陽光は完全に遮断され、わずかに残った建物の隙間や、靴底の縁から漏れる光だけが頼りだ。人々は、まるで巨大な獣の腹の下に迷い込んだ虫けらのように、その圧倒的なスケールの下で息を潜めるしかなかった。 時折、ゴ…と靴底全体が微かに動くような気配がすると、地上が再び揺れ、人々は新たな破壊の始まりかと身をすくませる。見上げれば、ただただ広がる黒い絶望。逃げ場のない閉塞感と、いつ再び動き出すかわからない恐怖が、生存者の心を蝕んでいく。 それは、絶対的な力によって支配された世界の、巨大な天井だった。 まず訪れたのは、巨大な影だった。太陽を覆い隠し、交差点全体が不自然な薄闇に沈む。人々が訝しげに空を見上げた瞬間、それは現れた。 空から降ってきたのではない。まるで次元の裂け目から踏み出されたかのように、巨大な黒いチェルシーブーツが、ゆっくりと、しかし確実に降下してきたのだ。なめらかな黒革の表面が鈍い光を放ち、サイドゴアの伸縮素材部分ですら、小型のビルほどもあるように見える。 「な、なんだ、あれは…!」 誰かの叫びは、次の瞬間に起こる惨劇の序曲に過ぎなかった。 ゴォォォンッ!! 地響きと共に、ブーツの厚いラバーソールが交差点の中央に叩きつけられた。衝撃は地震のように周囲のビルを揺らし、窓ガラスがビリビリと震える。 直下にあったタクシーや乗用車は、抵抗する間もなく、紙くずのように圧し潰された。バリバリ、グシャッ!という耳を覆いたくなるような金属の断末魔が響き渡る。ひしゃげた車体からはガソリンが漏れ出し、アスファルトには無残な轍(わだち)のような巨大な靴跡が刻まれた。 横断歩道を渡っていた人々は、突如として眼前に迫った巨大な「壁」と、足元から突き上げる衝撃に吹き飛ばされた。悲鳴を上げる暇もなく、人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。しかし、巨大な靴底が巻き起こした突風と、砕け散るアスファルト片が容赦なく襲いかかる。 ブーツの側面は、信号機や街灯をなぎ倒し、火花を散らせながら道路脇の植え込みを根こそぎ削り取った。近くのビルの低層階は、その衝撃波で窓ガラスが粉々に砕け散り、破片が雨のように降り注ぐ。 数秒後、地響きが収まると、そこには信じがたい光景が広がっていた。 かつての活気ある交差点は、巨大なブーツによって蹂躙され、破壊された残骸と化していた。潰れた車、砕けたアスファルト、散乱する破片、そして逃げ惑う人々の阿鼻叫喚。 漆黒のブーツは、まるで何事もなかったかのように、破壊の中心に堂々と鎮座している。その持ち主の姿は見えない。ただ、圧倒的な質量と破壊の爪痕だけが、そこに存在していた。 渋谷の喧騒は、一瞬にして恐怖と静寂、そして遠くから聞こえ始めた無数のサイレンの音に取って代わられた。 瓦礫の山と化した街で、ケンジは必死に走っていた。背後で響く地響きは、あの巨大なブーツが再び動き出したことを告げている。どこへ逃げれば安全なのか、もはや誰にも分からなかった。ビルは崩れ、道は寸断されている。視界の先、わずかに開けた広場のような場所が見えた。あそこなら、少しは時間が稼げるかもしれない。 息を切らし、瓦礫を乗り越え、ようやく広場にたどり着く。他にも数人の生存者が、絶望的な表情で空を見上げていた。ケンジもつられて空を見上げ、そして息をのんだ。 空は、なかった。 代わりに、巨大な黒い靴底が、ゆっくりと、しかし確実に降下してきていた。それはもはや空を覆う天井ではなく、死をもたらすプレス機のようだった。深く刻まれたトレッドパターン、そこにこびりついたアスファルトや金属片が、こちらを嘲笑うかのように見下ろしている。 「うわああああ!」 誰かが叫び声を上げ、再び走り出そうとする。しかし、もう遅い。巨大な靴底が作る影は急速に広がり、ケンジたちの足元を、そして全身を飲み込んでいく。周囲の光が失われ、完全な暗闇が訪れる寸前、ケンジは靴底の巨大な溝の一つが、まるで深淵の口のように自分に迫ってくるのを見た。 ゴ……ッ。 最初に感じたのは、耳をつんざくような轟音ではなく、空気そのものが圧縮されるような強烈な圧力だった。肺から空気が強制的に押し出され、息ができない。 次の瞬間、圧倒的な質量が襲いかかった。 骨がきしむ音を聞く余裕はなかった。体が、まるで脆いおもちゃのように、巨大な力によって押し潰されていく感覚。視界は完全に闇に閉ざされ、痛みを感じる間もなく、意識は深い、深い底へと沈んでいった。 ケンジや他の生存者たちがいた場所には、巨大な靴底が深くめり込んだ跡だけが残された。靴底が再び持ち上がると、そこにはもはや人間の形を留めたものは何もなく、ただ赤黒く濡れた地面と、無残に砕け散った何かの破片だけが、巨大な存在が通り過ぎた証として残されていた。 巨大なブーツは、まるで小さな虫を踏み潰したことにも気づかぬかのように、再びゆっくりと持ち上がり、次なる一歩を踏み出すべく、破壊された街の向こうへと進んでいく。その足元では、新たな悲鳴と破壊音が響き始めていた。 それはもはや、個別の建物を狙った破壊ではなかった。巨大なブーツの持ち主にとって、眼下に広がる都市は、ただの邪魔な凹凸に過ぎないようだった。その目的はただ一つ、この地表を平らに均(なら)すこと。 ドォォォン! ドォォォン! 規則的な、しかし地軸を揺るがすような足音が響き渡る。一歩踏み出すごとに、複数のビルが同時にその巨大な靴底の下敷きになった。高層ビルは上層階から垂直に圧壊し、衝撃で中間層が横に吹き飛ぶ。低層の建物群は、まるで砂の城のように一瞬で粉砕され、瓦礫と粉塵の波となって周囲に広がった。 ブーツはただ前進するだけではない。時折、その重いかかとを軸に、つま先で薙ぎ払うような動作を見せた。 ゴゴゴゴゴ… バリバリバリッ! 巨大なつま先が地面を削りながら薙ぎ払うと、まだ形を保っていたビルや道路、街路樹、信号機、それら全てが根こそぎ引き剥がされ、巨大な瓦礫の津波となって押し流される。剥き出しになった地面には、巨大な靴底の跡が、まるで耕された畑のように幾筋も刻まれていく。 残骸が積み上がった場所には、容赦なく次の踏みつけが加えられた。ブーツは体重をかけ、ゆっくりと足踏みをするように瓦礫の山を押し潰し、踏み固めていく。鉄骨は歪み、コンクリートはさらに細かく砕かれ、かつてそこに何があったのか判別できないほどの、均質な破壊の層を作り上げていく。 爆発音が断続的に響く。踏み潰された地下のガス管や電気設備がショートし、火柱や黒煙が噴き上がるが、それすら巨大なブーツにとっては些細な出来事のようだ。火の手は次の踏みつけによって瓦礫と共に踏み消され、あるいは新たな爆発を引き起こす。 数時間後、かつて摩天楼が林立し、無数の人々が生活していた都市は、その姿を完全に失っていた。 見渡す限り広がるのは、灰色と茶色の、起伏の少ない荒涼とした大地。砕けたコンクリート、ねじれた鉄骨、ガラスの破片、そして識別不能な残骸が、巨大な足跡と共にどこまでも続いている。風が吹くと、細かい粉塵が舞い上がり、視界をさらに悪化させる。 巨大なブーツは、もはや振り返ることもなく、地平線の向こうへとその歩みを進めていた。その背後には、完全に「更地」と化した、かつて街だった場所が、墓標もなく静かに横たわっているだけだった。生命の気配も、文明の痕跡も、巨大な蹂躙によって完全に消し去られていた。 -
巨大リーマン、街に現る その日、街はいつもの喧騒に包まれていた。人々は足早に歩き、車はクラクションを鳴らし、ビル群は空に向かってそびえ立っていた。だが、その日常は突如として破られた。 「ドォォォン……」 地響きと共に、地平線の彼方から二つの巨大な影が近づいてきた。それは、ピンストライプのスーツに身を包み、アタッシュケースを小脇に抱えた、二人のサラリーマンだった。ただ一点、彼らの身長が1000メートルもあることを除けば。 「やれやれ、佐藤くん。昨日のプレゼンは長かったな」 巨体の一人、田中(仮)が、まるで山が動くように歩きながら言った。その声は街全体に響き渡り、ビルの窓ガラスをビリビリと震わせた。 「ええ、田中部長。おかげで少々寝不足ですよ」 もう一人の巨体、佐藤(仮)が欠伸をすると、突風が巻き起こり、街路樹が大きくしなった。 彼らは街の中心部にたどり着くと、一息つくことにしたらしい。 巨大なる休息と破壊 「おっと、ちょっと失礼」 田中部長は、ちょうど良い高さの超高層オフィスビルを見つけると、何の気なしに「ドシン!」と腰を下ろした。ビルは悲鳴のような軋みを上げ、上層階は彼の巨大な尻の下でクシャリと潰れた。中の人々は、突然の衝撃と暗闇にパニックを起こしたが、田中部長は「ふぅ」と満足げに息をつくだけだった。 一方、佐藤くんは公園の緑地帯に目をつけた。 「ここなら、少しは柔らかいかな…」 彼は芝生の上に慎重に座った…つもりだったが、その衝撃で公園全体が巨大なクレーターのように沈み込み、噴水は天高く吹き上がった。近くにあった美術館は、彼の太ももに押されて傾いてしまった。 「部長、ちょっと小腹が空きません?」 佐藤くんが言うと、田中部長は頷いた。 「そうだな。…あ、あれなんかどうだ?」 部長が指さしたのは、港に停泊していた巨大なコンテナ船だった。彼はそれをひょいと持ち上げると、まるで弁当箱を開けるかのように蓋(ハッチ)を開け、中のコンテナをいくつか指でつまみ出した。人々が豆粒のように逃げ惑う。 しばらく休憩した後、二人は再び立ち上がった。 「さて、そろそろ会社に戻るか…いや、その前に少し気晴らしでも」 田中部長はニヤリと笑うと、履いていた巨大な黒い革靴(サイズはおそらく数100メートル)で、近くにあった複合商業施設を軽く蹴飛ばした。 「ガッシャァァァン!!」 靴の先端が当たっただけで、建物はまるで砂の城のように崩れ落ちた。革靴の光沢が、粉塵の中で鈍く光る。 「あ、部長、やりすぎは…」 佐藤くんが諌めるが、彼自身も足元の道路で渋滞している車列を見て、巨大な革靴のつま先で「ちょん」と突いた。ミニカーのように車が弾け飛び、アスファルトがめくれ上がる。 巨大顔の覗き込み 最後に、二人は街のランドマークタワーに興味を示した。 「お、ここの展望台は眺めが良いらしいな」 田中部長は身をかがめると、その巨大な顔をタワーの展望フロアに近づけた。窓ガラスの向こうには、豆粒のような人々が恐怖に引きつった顔でこちらを見上げている。部長の巨大な目が、フロア全体を覆い尽くさんばかりに覗き込む。彼の息がかかると、窓は一瞬で曇った。 「ふむ、確かに絶景だ。…ん?佐藤くん、君も見てみろ」 「は、はい」 佐藤くんも隣のビルの窓に顔を近づける。オフィスのパーティションやデスクが、彼の鼻先に触れそうだ。中で会議をしていたらしい人々は、椅子から転げ落ち、資料を撒き散らして大混乱に陥っていた。 「さて、そろそろ本当に戻らないと、課長に怒られるな」 「そうですね」 二人の巨大リーマンは、満足したのか、再び地響きを立てながら街を後にした。彼らが去った後には、腰を下ろされたビル、クレーターになった公園、革靴で破壊された施設、そして巨大な顔に覗き込まれた恐怖の記憶だけが残されていた。 街の復興には長い時間がかかるだろう。しかし、人々はこの奇妙で恐ろしい出来事を、いつまでも語り継ぐに違いなかった。あの巨大な革靴の鈍い光沢と、ビルを覗き込んだ巨大な目のことを。 街の中心部での「休息」を終えた巨大リーマン、田中部長と佐藤くん。彼らが再び歩き出すと、その足元で繰り広げられる日常の営みは、まるでミニチュアの世界のようだった。そして、彼らにとっての些細な「気晴らし」が、そのミニチュア世界にとっては未曽有の大破壊となるのだった。 第一楽章:港の悲鳴(船の破壊) 「おっと、危ない危ない」 田中部長が、まるで水たまりを避けるかのように軽く足を上げた。しかし、その「軽く」上げた足――長さ数百メートルはあろうかという黒いストレートチップの革靴――が、眼下の港に停泊していた大型フェリーの真上に影を落とした。太陽が遮られ、船上が一瞬で薄暗くなる。 人々が空を見上げ、その巨大すぎる靴の裏に恐怖の表情を浮かべる間もなく、それは振り下ろされた。 「グシャァァッ!!」 革靴の、硬く磨き上げられたつま先が、フェリーの中央部に突き刺さった。鉄板が紙のように裂け、メリメリと嫌な音を立てて船体が歪む。靴の先端は、客室デッキを貫通し、車両甲板まで到達。中に積まれていた乗用車やトラックが、巨大な圧力で押し潰され、火花を散らす。 「ん?何か踏んだかな?」 部長は気にも留めず、さらに体重をかけた。 「バキィッ!ゴゴゴゴ…」 フェリーは真っ二つに折れる寸前で、船首と船尾がV字に持ち上がる。マストがへし折れ、レーダーアンテナが弾け飛ぶ。海面が大きく波立ち、周囲の小型船が木の葉のように転覆した。 部長が何事もなかったかのように足を上げると、そこには無残に破壊され、海水が滝のように流れ込むフェリーの残骸が浮かんでいた。ゆっくりと、しかし確実に、それは海の底へと沈み始めていた。革靴の側面には、船の塗装がわずかに付着していたが、部長は気づきもしない。 第二楽章:路上の圧砕(バスの破壊) 「部長、あそこ見てください。赤いのがチョロチョロと」 佐藤くんが指さしたのは、幹線道路を走る路線バスだった。彼の視点から見れば、それはまるで赤い甲虫だ。 「ほう、邪魔だな」 佐藤くんは、履いているウイングチップの巨大革靴を、そのバスの進路上に「トン」と置いた。 「ドンッ!!」 という地響きと共に、道路が陥没し、アスファルトが砕け散る。バスは急ブレーキをかけたが、間に合わない。 佐藤くんは、まるで小さな虫を踏み潰すかのように、革靴のかかとをゆっくりと下ろした。 「パリンッ!グシャッ!ブシュゥゥ!!」 最初に窓ガラスが一斉に砕け散り、ガラス片がキラキラと舞う。次に、頑丈なはずのバスの車体が、巨大な革靴の重みに耐えきれず、アコーディオンのように圧縮されていく。金属の軋む音、断末魔のようなきしみが響き渡る。タイヤが破裂し、プシューッという音とともに空気が抜ける。 かかとが完全に下ろされると、バスはもはや元の形を留めていなかった。平たく潰れた鉄とガラスの塊となり、赤い塗装だけがかろうじてそれがバスであったことを示していた。佐藤くんは、靴底についたバスの残骸を、近くのビルの壁で「ゴシゴシ」と擦り落とした。ビルの壁面には、赤い塗料と油の筋が、巨大な擦り傷として残った。 第三楽章:線路の蹂躙(電車の破壊) 「お、次はあれか」 田中部長の視線が、高架線を走る通勤電車を捉えた。銀色の車体が、数珠つなぎになって走っている。 「競争しますか、部長?」 佐藤くんが悪戯っぽく笑う。 「よしきた!」 二人は同時に、それぞれの巨大な革靴を振り上げた。 田中部長は、走ってくる電車の先頭車両めがけて、革靴のつま先で蹴り上げた。 「ガッッッッッッッッッン!!!!」 金属と金属が衝突する、耳をつんざくような轟音。先頭車両は、まるでサッカーボールのように宙を舞い、回転しながら近くのビルに激突し、大爆発を起こした。 一方、佐藤くんは、電車のちょうど中間あたりを狙って、革靴で線路ごと踏みつけた。 「ドッゴォォォォン!!!」 高架線路が飴のようにひん曲がり、コンクリートの橋脚が粉々に砕ける。電車は急停止し、後続車両が次々と前の車両にめり込むように追突していく。「グシャグシャ」「バキバキ」という連続した破壊音。車両は無残に折れ曲がり、連結器が引きちぎれ、一部は高架から落下し、下の道路に叩きつけられた。火花が散り、黒煙が上がる。 二人の巨大リーマンは、自分たちの「作品」を見て、満足げに頷き合った。 「ふぅ、少しはスッキリしたな」 「ええ、いい運動になりました」 彼らの足元には、捻じ曲がった鉄塊、砕けたコンクリート、そして無数の小さな破片が散乱していた。巨大な革靴の底には、線路のバラスト(砂利)や電車の破片がこびりついていたが、彼らはそれを気にする様子もなく、次の目的地(おそらく会社だろう)へ向かって、再び地響きを立てながら歩き去っていった。残されたのは、破壊され尽くした交通インフラと、言葉を失った街の人々だけだった。 巨大リーマン、佐藤くんは、田中部長に続いて街の大通りを歩いていた。彼の歩幅はあまりにも大きく、一歩進むごとに数ブロック先へと移動する。やがて、彼の巨大な足が、交通量の多い大きな交差点に差し掛かった。 ちょうどその時、交差点の信号が赤に変わった。何十台もの乗用車、トラック、タクシーが、まるで意志を持った色とりどりのブロックのように、整然と停止線で止まった。クラクションの音、アイドリングの低いエンジン音、車内のラジオから漏れる音楽。人々は次の青信号を待っていた。それが、自分たちの存在そのものを脅かす巨大な影が迫っていることにも気づかずに。 佐藤くんは、信号など意に介さない。彼にとっては、信号機など足元の小さな飾りに過ぎない。彼はただ、歩みを止めずに、次のブロックへと足を運ぼうとした。 「んしょっと…」 彼が何気なく右足を前に踏み出した。その足――磨き上げられたブラウンのウイングチップ、サイズは優に小型ビルほどもある巨大な革靴――が、停止線で信号待ちをしていた車列の真上に影を落とす。 真下にいたドライバーたちは、一瞬にして空が暗くなったことに気づき、フロントガラス越しに空を見上げた。そこには、信じられない光景が広がっていた。巨大すぎる革靴の裏側、複雑な縫い目模様と、わずかに付着した泥や小石(彼らにとっては岩石サイズ)が見える。絶望的な大きさだった。 悲鳴を上げる間も、クラクションを鳴らす時間もなかった。 「ド……」 まず、革靴のつま先が、先頭車両の屋根に軽く触れた。触れたというよりは、圧力をかけた。 「ミシッ…」 という小さな音とともに、車のルーフがへこみ始める。 そして、佐藤くんの全体重(おそらく数百万トン)がかかり始めた。 「グシャァァァァッ!!!」 まるで熟したトマトを踏み潰すかのように、革靴は車列を容赦なく圧砕した。 先頭の数台は、一瞬でボンネットとトランクがくっつくほどに押し潰され、厚さ数十センチの鉄板とガラスの塊に変わる。金属が悲鳴を上げ、ねじ切れ、ガラスは粉々になって四方八方に飛び散った。 「バギンッ!」「メキメキッ!」「ブシャァァッ!」 破壊は瞬く間に後続の車両へと連鎖していく。トラックのコンテナは紙箱のようにひしゃげ、タクシーの黄色いボディは無残に歪み、高級セダンの流麗なフォルムは見る影もなくなる。タイヤが次々と破裂し、「パンッ!パンッ!」という乾いた音が、金属の軋む轟音の中に響く。ガソリンやオイルが漏れ出し、アスファルトに黒いシミを広げた。 佐藤くんの巨大な革靴の底が、完全にアスファルトに接地したとき、そこには元の形を留めた車は一台もなかった。十数台の車が、まるで巨大な足跡の模様の一部のように、平たく潰れた残骸となって革靴の下に敷き詰められていた。革靴の縫い目や模様の凹凸が、潰れた車体にクッキリと刻印されている。 「ん?……なんか、ちょっとグニャッとしたな」 佐藤くんは、足裏に伝わるわずかな感触に気づいたかもしれない。まるで、分厚い絨毯の上を歩いた時のような、ほんの少しの違和感。しかし、彼は特に気にする様子もなく、すぐに左足を前に踏み出した。 彼が右足を上げると、アスファルトには巨大な靴跡が残り、その中には、かつて車だったものの、色とりどりの、無残なスクラップの集合体が転がっていた。オイルの虹色の膜が、水たまりに浮かんでいる。 巨大リーマンは、自分が引き起こした惨状を振り返ることもなく、ただ黙々と歩き去っていく。交差点には、破壊の爪痕と、呆然と立ち尽くす人々、そして遠くから聞こえ始めるサイレンの音だけが残された。 -
.巨大リーマンとコンビニ
雲を突き抜けるほどの巨躯を持つサラリーマンが、街にそびえ立っていた。その身長、実に1000メートル。くたびれたグレーのスーツに身を包み、首元のネクタイはわずかに緩んでいる。彼の表情は、長時間のデスクワーク後のような、あるいは満員電車に揺られた後のような、漠然とした疲労感を漂わせていた。 ふと、巨大なサラリーマンは足元に目をやった。そこには、まるでジオラマのように小さなコンビニエンスストアが見える。色とりどりの看板、整然と並んだ自動販売機、そして駐車場には、ミニカーのような乗用車が数台、ちょこんと停まっていた。 彼はため息ともつかぬ息を一つ吐くと、ゆっくりと右足を上げた。磨き上げられた黒い革靴の、山のような巨体が空気を圧迫しながら持ち上がる。太陽がその巨大な靴底に遮られ、コンビニの駐車場一帯に巨大な影が急速に広がっていく。 狙いは、駐車場の中央付近に停められていた銀色のセダン。 次の瞬間、 ゴシャァッ!!! という、地響きを伴う凄まじい破壊音が響き渡った。巨大な革靴のかかとが、容赦なくセダンに振り下ろされたのだ。まるで空き缶を踏み潰すかのように、車体は一瞬で歪み、ひしゃげ、原型を留めない鉄屑へと変わる。フロントガラスは粉々に砕け散り、タイヤは破裂し、金属が軋む耳障りな音が巨大な足音にかき消された。 巨大サラリーマンは、一瞬だけ足元の惨状を見下ろした。革靴の裏には、潰れた車の破片がわずかに付着している。しかし、彼は特に気にする様子もなく、再び前を向くと、何事もなかったかのように次のビルへと向かって、ゆっくりと、しかし着実に歩き始めた。 ぺしゃんこになった車の残骸だけが、巨大な足跡の中心で、非現実的な破壊の痕跡を静かに物語っていた。コンビニの看板だけが、日常と変わらず明るく点灯しているのが、やけにシュールに見えた。 巨大なサラリーマンは、先ほど車を踏み潰したコンビニの前で、わずかに足を止めた。何かを探すような、あるいは単に次の行動を考えているような、そんな曖昧な表情で足元を見下ろしている。彼の視線の先には、色鮮やかなロゴが描かれた、小さな箱のようなコンビニエンスストアがあった。 ふと、彼は右足をわずかに動かした。その動きは、人間が部屋に入ろうとする時の、ごく自然な仕草に似ていた。しかし、彼にとっての「部屋の入り口」は、地上から見れば巨大な災害そのものだった。 磨き上げられた黒い革靴の、鋭利なつま先がゆっくりとコンビニへと近づいていく。まるで山脈が移動するかのように、巨大な質量が空気を押し退け、低い地響きを伴って前進する。 コンビニの自動ドアは、人間サイズのセンサーには反応するが、雲をかすめるほどの巨人の接近には全く気づいていない。ガラスには、店内の明るい照明と、整然と並んだ商品棚が映り込んでいる。日常の縮図のような光景だ。 次の瞬間、革靴の先端が、コンビニの入り口、ガラス製の自動ドアに触れた。 バリンッ!!ゴゴゴゴッ!!! 想像を絶する圧力が一点に集中し、ガラスは一瞬で粉砕され、まるで砂糖菓子のように砕け散った。しかし、破壊はそこで止まらない。革靴のつま先は、入り口のフレーム、壁、そして天井へと、まるでバターを切るように突き進んでいく。 鉄骨は飴のように捻じ曲がり、コンクリートの壁はビスケットのように崩れ落ちる。店内に並んでいた商品棚はドミノ倒しのように薙ぎ払われ、色とりどりのパッケージや飲料ボトルが衝撃で吹き飛び、破裂する。 「ミシミシ…メリメリメリ…!!」 建物全体が、巨大な力によって引き裂かれる悲鳴を上げる。屋根が持ち上がり、壁が外側に剥がれ落ち、コンビニエンスストアはもはや元の形を留めていない、瓦礫の山へと変貌していく。 巨大サラリーマンは、足先にわずかな抵抗を感じたのか、軽く眉をひそめた。まるで、歩いている途中で小石でも蹴飛ばしたかのような、些細な反応だ。彼は、革靴の先端が小さな「障害物」に引っかかっていることに気づいた(あるいは気づいていないのかもしれない)が、特に意に介する様子もなく、そのまま足を引いた。 革靴が離れると、そこには無残に破壊されたコンビニの残骸だけが残されていた。入り口があった場所は、巨大な靴の先端の形に抉り取られ、内部構造が剥き出しになっている。粉塵が舞い上がり、破片が散乱する中、かろうじて原型を保っている自動販売機だけが、場違いなほど静かに佇んでいた。 巨大サラリーマンは、再び無表情に前を向き、次の目的地へと歩き出す。彼の革靴の先端には、コンビニの壁の一部だったコンクリート片や、歪んだ金属片がわずかに付着していたが、すぐに風に飛ばされていった。 コンビニ店員の鈴木(仮名)は、深夜シフトの気だるさの中で、レジカウンターにもたれかかりながら欠伸を噛み殺していた。客足も途絶え、蛍光灯の単調な唸りだけが店内に響く、いつもの静かな時間。スマホで時間を確認し、あと数時間だと溜息をついた、その時だった。 ゴゴゴゴゴ…… 低い、腹の底に響くような地響きが床を揺らした。 「ん?地震か…?」 鈴木は顔を上げ、窓の外を見た。しかし、街灯もビルも揺れている様子はない。ただ、何かがおかしい。異常なほど巨大な「影」が、みるみるうちにコンビニ全体を覆い尽くしていくのだ。まるで、日食のように。 「な、なんだ…?」 不安に駆られ、自動ドアに近づこうとした瞬間、彼の視界は信じられない光景に釘付けになった。 空を覆うほどの巨大な、黒く磨かれた革靴のつま先。それが、まるでスローモーションのように、コンビニの入り口に向かって迫ってくる。遠近感が狂うほどの巨大さ。革の質感、縫い目の一つ一つまでが見える気がするが、その全体像はもはや建造物か山脈のようだった。 「う、嘘だろ…?」 声が震える。体が硬直し、足が床に縫い付けられたように動かない。脳が目の前の光景を理解することを拒否している。 バリンッ!!! 思考する間もなく、自動ドアのガラスが凄まじい音を立てて粉砕された。ガラス片が嵐のように店内に吹き込み、鈴木は反射的に腕で顔を庇う。 ゴゴゴゴッ!メリメリメリッ!! ガラスを砕いた巨大なつま先は、勢いを緩めることなく店内に侵入してきた。入り口のフレームが紙細工のように捻じ曲がり、壁が内側に崩れ落ちてくる。商品棚がなぎ倒され、スナック菓子やペットボトルが宙を舞い、床に叩きつけられて破裂する音が耳をつんざく。 「うわあああああっ!!」 鈴木はようやく硬直から解き放たれ、恐怖に駆られてカウンターの後ろに身を伏せた。頭上では、天井が軋み、剥がれ落ち、鉄骨が歪む断末魔のような音が響き渡る。粉塵が舞い上がり、視界は白く染まる。巨大な革靴の一部が、すぐそこ、カウンターのすぐ脇を通り過ぎていくのが、粉塵の向こうにかろうじて見えた。その圧倒的な存在感に、息が詰まる。 どれくらいの時間が経ったのか。破壊の轟音が遠ざかり、代わりに細かい破片がパラパラと降り注ぐ音がする。鈴木は恐る恐る顔を上げた。 目の前には、信じられない光景が広がっていた。 コンビニの入り口があった場所は、巨大な足の形に抉り取られ、夜空が見えている。店内は瓦礫の山と化し、ついさっきまで整然と並んでいた商品は見る影もない。粉塵が漂う中、かろうじて形を保っているレジスターが「ピッ」と虚しい電子音を立てた。 「…………」 声が出ない。何が起こったのか? 夢? いや、頬をつたう冷や汗と、全身の震えが現実だと告げている。 巨大な革靴の先端が、ゆっくりと後退していくのが見えた。まるで、些細な邪魔物を払いのけたかのように。そして、巨大なサラリーマンの足音が遠ざかっていく。 鈴木は、破壊されたコンビニの残骸の中で、ただ呆然と立ち尽くしていた。口を半開きにし、焦点の合わない目で、ぽっかりと空いた巨大な穴と、その向こうに見える星空を見上げていた。やがて、遅れてやってきた恐怖と混乱の波に襲われ、彼はその場にへたり込み、嗚咽とも悲鳴ともつかない声を漏らすことしかできなかった。 「たす…けて……」 か細い声は、瓦礫と静寂の中に虚しく響いた。 コンビニ店員の鈴木(仮名)は、深夜の静寂の中、雑誌コーナーの整理をしていた。客はもうしばらく来ていない。外のネオンサインだけが、無人の駐車場をぼんやりと照らしている。いつもの退屈な夜勤だ、と思っていた、その時だった。 ミシッ……。 微かな音が天井から聞こえた。 「…ネズミか?」 鈴木は顔を上げ、蛍光灯が並ぶ白い天井を見上げた。特に変わった様子はない。気のせいかと思い、作業に戻ろうとした。 パラパラ……。 今度は、天井から白い粉のようなものが落ちてきた。同時に、先ほどよりもはっきりとした、何かが軋むような音が響く。 「おいおい、なんだよ…」 不安が胸をよぎる。鈴木は雑誌を置くと、天井を注意深く観察した。すると、天井の一部に細い亀裂が走っているのが見えた。亀裂は、まるで生き物のように、ゆっくりと広がっていく。 ミシミシ…バキッ! 亀裂は一気に広がり、大きな音を立てた。天井の石膏ボードが歪み、蛍光灯が激しく揺れ始める。 「やばい!」 鈴木が身構えた瞬間、それは起こった。 ゴゴゴゴゴォォォン!!! 耳をつんざくような轟音と共に、コンビニの天井が爆発したかのように砕け散った!粉塵、石膏ボードの破片、歪んだ蛍光灯、ぶち切れた配線などが、滝のように店内に降り注ぐ。 そして、その崩壊した天井の穴から、信じられないほど巨大な「何か」が姿を現した。 それは、黒く鈍い光沢を放つ、巨大な革靴のかかと部分だった。 山のように巨大なかかとが、重力に従ってゆっくりと、しかし圧倒的な質量を持って降下してくる。それはまるで、天罰のように、コンビニの小さな空間を侵食していく。店内に急速に影が広がり、照明の光が遮られる。 「うわあああああああっ!!」 鈴木は悲鳴を上げ、咄嗟に一番近くにあった飲料ケースの棚の陰に飛び込んだ。 ドゴォォォン!!! 巨大なかかとが、店内の床に激突した。凄まじい衝撃が走り、コンビニ全体が激しく揺れる。床のタイルは粉々に砕け散り、衝撃波で近くの商品棚が弾け飛ぶように倒壊した。ペットボトルが破裂し、缶詰が転がり、スナック菓子の袋が宙を舞う。 鈴木が隠れた棚も激しく揺さぶられ、頭上から商品が降り注ぐ。彼は必死に頭を抱え、体を小さくした。 粉塵が少しずつ晴れてくると、目の前の光景に鈴木は息を飲んだ。 コンビニの中央には、天井を突き破り、床にめり込むようにして、巨大な革靴のかかとが鎮座していた。磨き上げられた黒い革の表面には、天井の破片が付着している。その巨大さは、店内の空間を異様なほど圧迫していた。すぐ近くで見ると、革のシワや靴底のわずかな擦り傷までが見える気がする。非現実的な光景に、脳が理解を拒む。 巨大な革靴は、ぴくりとも動かない。まるで、巨大な彫刻が突然出現したかのようだ。 鈴木は、棚の隙間からその異様な光景を、ただ震えながら見つめることしかできなかった。外に通じるはずの入り口は瓦礫で塞がれ、天井には巨大な穴が空き、そこから冷たい夜空が覗いている。 静寂が戻った店内に、自分の荒い息遣いと、どこかでショートした配線がパチパチと火花を散らす音だけが響いていた。 成層圏に頭を突っ込み、雲海を足元に見下ろす身長10000メートルの巨大サラリーマンは、束の間の休息なのか、ふと足を止めた。その巨躯が動きを止めるだけで、地球の自転にわずかな影響を与えるのではないかと思えるほどだ。彼の表情は、何万時間も続く会議の後のような、あるいは宇宙規模のプロジェクトに忙殺された後のような、計り知れない倦怠感に満ちていた。 彼は退屈そうに、眼下に広がるミニチュアのような街並みを眺めた。高層ビル群すら、彼にとってはレゴブロックの集まりに過ぎない。その中で、ひときわ小さな、色付きの点滅が見える区画があった。おそらく、コンビニエンスストアとその周辺だろう。彼にとって、それは床に落ちたパンくずほどの存在感しかない。 ふと、巨大サラリーマンの目に、ほんのわずかな好奇心とも気まぐれともつかない光が宿った。彼はゆっくりと、山脈のような巨大な指を一本、地上へと伸ばし始めた。大気圏を突き抜け、雲をかき分け、その指先は地上に急速に接近していく。指が空気を圧迫する衝撃波だけで、地上の窓ガラスが広範囲にわたって砕け散った。 最初の「遊び」は、**「つつく」**ことだった。 彼の巨大な指先が、目標のコンビニが存在する区画に軽く触れた。 ドゴォォォン!!! 「軽く」つついたつもりでも、その指先の質量と速度は、小型の隕石の衝突に匹敵した。コンビニエンスストアは跡形もなく消滅し、地面には巨大な指の形のクレーターが穿たれた。衝撃で周囲のビルは紙細工のように倒壊し、地響きがプレートを揺らす。 巨大サラリーマンは、一瞬で消えた「点」を見て、わずかに首を傾げた。まるで、思ったより脆いおもちゃに触れてしまった子供のような反応だ。 次に彼は、**「積み木」**を試みた。 指先で近くにあった(彼にとっては)手頃なサイズの高層ビルをつまみ上げた。ビルは根元から引き抜かれ、悲鳴のような金属音を立てる。彼はそのビルを、先ほどコンビニがあった場所の隣に、そっと置こうとした。 ズズズ…ン!!ゴゴゴゴッ! 「そっと」置いたつもりでも、超高層ビルほどの質量の塊が地面に置かれれば、その衝撃は計り知れない。地面は陥没し、周辺の道路網は寸断され、近くにあった別のビル群が連鎖的に倒壊していく。まるで、巨大な子供がブロックを乱暴に置いたかのように。 彼はしばらく、自分が作り変えた地形を眺めていた。指先には、ビルの破片や鉄骨がわずかに付着している。彼はそれを、まるで指についた埃を払うかのように、軽く指ではじいた。 ビュンッ! ドガガガガッ! はじかれたビルの破片は、音速を超えて飛翔し、数キロ先の街区に着弾。新たな破壊と爆発を引き起こした。 最後に、彼は**「息を吹きかける」**ことにしたようだ。 ふぅーっ、と、まるでロウソクの火を消すかのように、彼は眼下の街に向かって息を吹きかけた。 ゴオオオオオオオオオオ!!!! 彼の肺から放たれた息は、地上ではカテゴリー5を超えるスーパーハリケーンに等しかった。暴風が街全体を薙ぎ払い、残っていた建物は根こそぎ吹き飛ばされ、車は木の葉のように舞い上がり、人々(もし存在していれば)は一瞬で塵と化した。風圧だけで地面が削り取られ、地形が変わるほどの威力だった。 ほんの数分間の「遊び」で、一つの都市機能が完全に麻痺し、壊滅的な被害を受けた。 巨大サラリーマンは、少しだけ気が紛れたのか、あるいは単に飽きたのか、再び無表情に戻ると、何もなかったかのようにゆっくりと歩き始めた。彼の巨大な革靴が、破壊された街の残骸を踏み越え、地平線の彼方へと消えていく。 後に残されたのは、巨大な指の跡、不自然に積み上げられた(あるいは突き刺さった)ビルの残骸、そして暴風によって更地と化した大地だけだった。かつてそこにコンビニがあったことなど、もはや誰にも分からなかった。 成層圏を突き抜ける巨躯を持つサラリーマンは、眼下に広がるミニチュアの街をぼんやりと眺めていた。その視線が、地上の一点、色鮮やかな看板を持つ小さな箱――コンビニエンスストア――に留まる。彼にとってそれは、デスクの上に落ちた消しゴムのカスほどの存在でしかない。 ふと、彼の疲れた顔に、子供が悪戯を思いついたような、ほんの一瞬の表情が浮かんだ。彼はゆっくりと右足を動かし、その巨大な黒い革靴のつま先を、コンビニが存在する区画へと慎重に(彼なりの感覚で)下ろしていく。 ズズズ… メリメリメリッ…!! 革靴の先端が大地に触れると、地面はまるで柔らかい泥のように裂けた。彼はそのまま、つま先を巨大なスプーンのように使い、コンビニが建っている地面の一部を、周囲の道路や街路樹、駐車場の車数台ごと、ごっそりと掬い上げた。土台ごと持ち上げられたコンビニは、巨大な革靴の先端に乗っかり、不安定に揺れている。 次に、巨大サラリーマンは掬い上げた足を持ち上げ、その巨大な革靴の中に、まるで靴に小石が入ったかのように、コンビニとその土台を「入れた」。革靴の内部は、それ自体が一つの巨大な渓谷のような空間だ。その広大な暗闇の中に、小さなコンビニ(と土台)がちょこんと収まった。 ここからが彼の「遊び」の時間だった。 まず、彼は巨大な革靴を手に持ち(実際には足に履いたまま、わずかに持ち上げて)、 軽く振ってみた 。ゴゴゴ… ガシャン! バラバラ! 革靴という巨大な容器の中で、コンビニとその土台は激しく揺さぶられた。建物の壁に亀裂が走り、窓ガラスは一瞬で粉砕。棚の商品やレジスターは内部でめちゃくちゃに散乱し、屋根の一部が崩れ落ちる。駐車場の車は土台の上で転がり、ぶつかり合い、ひしゃげていく。まるで、おもちゃ箱を乱暴に振ったかのように。 次に、彼は革靴をゆっくりと 傾けてみた 。ズルズル… ゴロゴロ… ドシャッ! 革靴の傾斜に沿って、コンビニの残骸と化した建物と土台が、土砂と共に滑り落ち、転がっていく。壁は完全に崩壊し、鉄骨が歪み、原型を留めない瓦礫の塊へと変わっていく。革靴の内側の壁にぶつかるたびに、鈍い破壊音が響く。 巨大サラリーマンは、巨大な顔を革靴の履き口に近づけ、中の様子を 覗き込んだ 。彼の巨大な目が、暗い靴の中を覗く。そこには、もはやコンビニとは呼べない、粉々になった建材と土砂、そして潰れた車の残骸が、革靴の底に広がっているだけだった。彼の息遣いだけで、中の軽い破片が舞い上がる。「ふむ…」 彼は小さく呟いたのか、あるいはただ息を漏らしただけなのか。その表情からは、満足したのか、飽きたのか、判別がつかない。 遊びは終わったようだった。彼は革靴を逆さまに傾け、中の「ゴミ」――かつてコンビニだったものの成れの果て――を、まるで靴の中の砂を出すように、ザラザラと地上にぶちまけた。 ドサドサドサーッ…! 瓦礫と土砂が、もともとコンビニがあった場所の近くに、小さな(彼にとっては)山を築いた。 そして、彼は最後に、その瓦礫の山に向かって、ゆっくりと革靴を下ろした。 ズシャァァァァァ……。 今度は、押し潰すような鈍い音。瓦礫の山は一瞬で平らにならされ、地面にねじ込まれるようにして消滅した。 巨大サラリーマンは、革靴の裏についた土を軽く払う仕草をすると、何もなかったかのように、再び巨大な歩みを進め始めた。彼の足元では、かつてコンビニが存在した証拠は、地面に刻まれた巨大な靴跡と、わずかに変形した地形だけとなっていた。 成層圏に達する巨躯を持つサラリーマンは、しばらくの間、眼下のミニチュアのような街で気まぐれな「遊び」に興じていた。指でつつき、ビルを積み木のように動かし、息を吹きかけて地形を変える。しかし、その巨大すぎる存在にとって、地上の出来事はあまりにも些細で、すぐに飽きが来てしまった。 彼の表情から、わずかに宿っていた好奇心や気まぐれの光が消え、元の計り知れない倦怠感へと戻っていく。まるで、面白くないテレビ番組のチャンネルを変えるかのように、彼は足元の「遊び場」への興味を失った。 「ふぅ…」 溜息とも呼べない、成層圏の空気を揺るがすほどの呼気が漏れた。もう十分だ、と思ったのかもしれない。あるいは、単に次の目的地へ向かう時が来ただけなのかもしれない。 彼は、先ほどまで指先や息で弄んでいた区画――かつてコンビニエンスストアが存在し、今は彼の「遊び」によって無残な瓦礫とクレーターが広がる場所――に、最後の視線を向けた。それは確認というより、単なる動作の区切りに近い、無機質な眼差しだった。 そして、ゆっくりと、しかし確実に、右足を上げた。 地球の地表を覆う雲よりも巨大な、黒く磨かれた革靴が、空を覆い尽くしていく。太陽は完全に遮られ、広大な範囲が急速に深い影に沈む。それは、天が落ちてくるかのような、絶望的な光景だった。 狙いは、先ほどまで「遊び」の対象だった、破壊された区画全体。 次の瞬間、思考する間も、祈る間もなく、終焉が訪れた。 ズドォォォォォォォォォォン!!!!!!!! もはや音という概念を超えた、地殻そのものが絶叫するような衝撃。巨大すぎる革靴の靴底全体が、大地に叩きつけられたのだ。 かつてコンビニがあり、ビルが建ち並び、道路が走っていた区画は、文字通り「消滅」した。 踏みつけられた場所は、一瞬にして圧縮され、粉砕され、地殻の奥深くへと叩き込まれる。衝撃波は地球規模で伝播し、遠く離れた大陸プレートすら微かに震わせた。巨大なクレーターというよりも、大地そのものが巨大な足跡の形に恒久的に凹んでしまったかのようだ。深さは数百メートルに達し、マグマに近い地熱が漏れ出すほどの深さだった。 そこにあった全てのものは、原子レベルにまで分解されたかのように、完全に無に帰した。瓦礫も、残骸も、何も残らない。ただ、巨大な革靴の底の模様が、大地に焼き印のように刻まれているだけだった。 巨大サラリーマンは、足元の感触――まるで少し柔らかい地面を踏んだかのような、彼にとっては取るに足らない感触――を確認すると、何事もなかったかのように足を上げ、次の歩みを進めた。 彼の革靴の裏には、高温で溶け、圧縮されたかつての地表の物質がわずかに付着していたが、それも次のステップで振り落とされるだろう。 巨大な足跡だけが、文明の痕跡すら消し去られた大地に、圧倒的な存在の通過を物語っていた。空には再び太陽が現れたが、地上にはもはや照らすべき街も、コンビニも、何も残ってはいなかった。 -
佐々木 健二(ささき けんじ)。中堅商社に勤める、ごく普通のサラリーマンだった。いや、「だった」と言うべきだろう。 その日も、彼は終わらない残業と上司からの叱責、積み重なるプレッシャーに押し潰されそうになっていた。資料の数字を睨みつけ、眉間に深い皺を刻んだまま、彼は無意識に拳を握りしめていた。「もう、限界だ…」心の中で呟いた、まさにその瞬間だった。 「ウオオオオオオオッ!!」 自分の喉から発せられたとは思えない、地響きのような咆哮と共に、佐々木の身体は凄まじい勢いで膨張を始めた。オフィスビルの天井を突き破り、窓ガラスが砕け散る。スーツは引き裂けんばかりに張り詰め、ネクタイが風にあおられて踊る。視界が急速に上昇し、眼下に広がる街並みが、まるでミニチュアのように見えた。 何が起こったのか理解する間もなく、彼の巨体は、慣性と自身の重みで地上へと落下した。 ゴオオオオォォンッ!! 着地の衝撃は、高架道路をいとも簡単にへし折り、周囲のビルを揺るがした。アスファルトが砕け、土煙が舞い上がる。耳をつんざく破壊音と、人々の悲鳴が遠くに聞こえる。 画像は、まさにその着地の瞬間を捉えている。 長年溜め込んできたストレス、抑圧された感情、満たされなかった承認欲求。それら全てが、物理的なエネルギーとなって爆発したのだ。彼の表情は怒りか、苦痛か、それとも、全てから解放された雄叫びか。 もはや佐々木健二という個人の意思を超え、 巨大なスーツ そのものが質量を持った災害と化していた。彼が一歩踏み出すたび、足元では悲劇が起こる。磨き上げられていたはずの 巨大な革靴 ――今やそれは、ビル数階分に匹敵する質量を持つ鉄槌だ。硬いレザーのソールがアスファルトにめり込み、地響きと共に放射状の亀裂が走る。次の瞬間には、道路は粉々に砕け散り、乗り捨てられた車はブリキのおもちゃのように潰れていく。「ドォォン!」 革靴の踵(かかと)が、オフィスビルの低層階をいともたやすく打ち砕く。鉄骨がきしみ、コンクリートの破片が滝のように落下する。人々が逃げ惑う悲鳴すら、その巨大な靴音にかき消されてしまう。 スーツもまた、凶器だった。彼がわずかに身じろぎするだけで、 巨大なスーツ の硬い生地が隣接するビルの壁面を削り取る。腕を振り上げれば、袖口が巻き起こす風圧で窓ガラスが一斉に吹き飛んだ。風を切るネクタイですら、叩きつけられれば小型車を横転させるほどの威力を持っていた。それは、彼が普段窮屈に感じていた「社会の鎧」そのものだった。その鎧が今、皮肉にも物理的な破壊の象徴となり、彼が憎んでいたはずの街並みを蹂躙していく。 佐々木自身は、もはや自分が何をしているのか、正確には把握できていないのかもしれない。ただ、足元で砕け散る瓦礫の感触と、全身を包む 巨大なスーツ の重さだけが、彼の存在を証明していた。足元で砕け散る文明の残骸を見下ろし、佐々木は天を仰いで再び叫んだ。それは、これまでの矮小な自分自身への決別であり、予期せぬ巨大な力への戸惑いであり、そして、これから始まるであろう未知の運命への咆哮だったのかもしれない。 巨大化したサラリーマン、佐々木健二。彼の意図せぬ破壊は、まだ始まったばかりだった。 佐々木健二は、巨大化した自分の足元を見下ろした。そこには、彼が毎朝うんざりしながら磨き、窮屈な思いで履いていたはずのビジネスシューズがあった。だが、それはもはや単なる靴ではない。一つ一つが小型のビルほどの大きさを持つ、 巨大な革靴 へと変貌していたのだ。鏡面のように磨き上げられていたはずの黒いカーフスキン。今は土埃とコンクリートの粉にまみれ、鈍い光を放っている。そのつま先は鋭利な鉄塊のように、踵(かかと)は巨大なハンマーのように見えた。それは、彼を縛り付けていた社会のルール、ビジネスの戦場を象徴するアイテム。そして今、最強の破壊兵器と化していた。 「……っ!」 言葉にならない衝動が、佐々木を突き動かした。彼は右足を振り上げ、眼下の、かつて自分が渋滞に巻き込まれて舌打ちした高架道路を狙った。 「ドゴォォォンッ!!!」 巨大革靴 の硬いソールが、分厚いアスファルトと鉄骨の構造物を、まるで薄い氷を割るかのように貫いた。道路は無残にへし折れ、支柱が砕け散る。落下するコンクリート片が、下の道路に停まっていた車を押し潰し、爆発音と黒煙が上がる。一撃。ただの一撃で、都市のインフラが破壊される。その圧倒的な威力に、佐々木自身、一瞬息を呑んだ。だが、すぐに奇妙な高揚感が湧き上がってくるのを感じた。 そうだ、この靴で、いつも自分は走り回っていた。すり減ったヒールは、達成感のない営業回りの証。つま先の傷は、満員電車で踏まれたやるせなさの記憶。この靴は、彼の抑圧の象徴だったのだ。 「ウオオオッ!」 佐々木は咆哮し、今度は左足の 巨大革靴 で、かつて自分が頭を下げて入ったことのある取引先の高層ビルを蹴りつけた。つま先がビルの壁面に突き刺さり、ガラスと外壁を派手に吹き飛ばす。まるで巨大な爪で引っ掻いたかのように、ビルに深い傷跡が刻まれた。彼は止まらない。 巨大革靴 で地面を踏み鳴らすたびに、大地が揺れ、周囲の建物が共振して窓ガラスを震わせる。踵で踏みつければ、地面は陥没し、地下鉄のトンネルが崩落する音すら聞こえてくるかのようだ。靴紐を結ぶように足を動かせば、その動きだけで電柱や街灯が薙ぎ倒されていく。人々が逃げ惑う姿が、アリのように小さく見える。彼らの悲鳴は、 巨大革靴 が立てる破壊音の前では、ほとんど意味をなさなかった。佐々木は、もはや自分が何者なのか、分からなくなっていた。ただ、この黒い 巨大革靴 という鉄槌を振るうたびに、胸の奥で燻っていた何かが、少しずつ解放されていくような感覚だけがあった。破壊の限りを尽くすその足元で、かつての彼が属していた世界が、粉々に砕け散っていく。破壊の限りを尽くした佐々木健二の巨体は、しかし永遠に動き続けられるわけではなかった。急激な巨大化と、それに伴う常識外れの破壊活動は、彼の心身に想像を絶する負荷をかけていたのだ。 「はぁ…はぁ…っ!」 息が上がる。視界が霞み、全身の筋肉が悲鳴を上げている。 巨大なスーツ は、もはや彼を守る鎧ではなく、動きを制限する重く硬い拘束具のように感じられた。その時だった。足元の瓦礫にバランスを崩したのか、あるいは限界を超えた疲労によるものか、佐々木の巨体がぐらりと傾いた。 「う、おお…っ!?」 立て直そうとする意思とは裏腹に、体は重力に従う。まるでスローモーションのように、彼の巨躯はゆっくりと、しかし止めようもなく、隣接する高層ビル群へと倒れ込んでいった。 ゴゴゴゴゴ…… ドッゴォォォォン!!! 巨大なスーツ の肩が、背中が、次々とビルに激突する。硬い生地は衝撃を吸収することなく、むしろ一点に集中させるかのように、ビルの外壁を砕き、鉄骨をへし曲げ、フロアを押し潰していく。スーツの生地がコンクリートと擦れる耳障りな音、ガラスが砕け散る音、そしてビルそのものが崩壊していく轟音が、一体となって街に響き渡った。粉塵が爆発的に舞い上がり、太陽の光を遮る。倒れ込んだ衝撃で、佐々木は激しく咳き込んだ。瓦礫と粉塵の中で、彼はもがきながら身を起こそうとした。視界の先には、まだ無傷で聳え立つ、ひときわ高い通信タワーが見えた。それはまるで、彼の矮小さを嘲笑っているかのようだった。 「……くそっ!」 怒りなのか、自暴自棄なのか。佐々木は倒れた姿勢のまま、足元の 巨大な革靴 に手を伸ばした。指が、まるでクレーンが瓦礫を掴むように、硬いレザーを掴む。そして、渾身の力を込めて、その 巨大革靴 を――まるで砲弾のように――通信タワーに向かって投げつけたのだ!「うおおおおおおおっ!!」 重さ数十トンはあろうかという 巨大革靴 が、唸りを上げて宙を飛ぶ。それは不格好な、しかし圧倒的な質量を持った凶器だった。黒い塊が空を切り裂き、一直線にタワーへと迫る。タワーの中間部に 巨大革靴 が激突した瞬間、凄まじい衝撃音が響き渡った。金属が歪み、引きちぎれる音。構造体が致命的なダメージを受け、タワーは大きく傾ぎ始める。「ドォォン… バキバキバキッ…!」 そして、巨大な鉄の塔は、ゆっくりと、しかし確実に、自重に耐えきれず折れ曲がり、轟音と共に地上へと崩れ落ちていった。 投げ放たれた 巨大革靴 は、タワーの残骸と共に瓦礫の中に突き刺さっている。佐々木は、倒れ込んだまま、その光景をただ呆然と見つめていた。スーツは埃と傷にまみれ、片方の足は靴を失い、巨大な靴下が剥き出しになっていた。彼の周囲には、ただ破壊と静寂だけが広がっていた。通信タワーの残骸を呆然と見つめていた佐々木健二は、ゆっくりと身を起こした。 巨大なスーツ は埃と瓦礫で汚れ、あちこちが擦り切れている。そして彼の右足は、先ほど投げ飛ばしたため、黒いビジネスソックスが剥き出しになっていた。いや、その衝撃でか、靴下すら一部が破れ、巨大な親指の爪が覗いている。「……」 もはや言葉はなかった。ただ、目の前に広がる破壊された街並みが、非現実的な現実としてそこにあるだけだ。ふと、彼の視線が足元近くに残骸を免れた一台の白い乗用車を捉えた。持ち主が慌てて乗り捨てたのだろうか、ドアが開いたままになっている。それは、かつての日常の、あまりにも矮小な象徴だった。 佐々木の中に、再び黒い衝動が湧き上がる。まるで虫けらを払うかのように、彼は無造作に、靴下(と一部素足)の右足を振り上げた。太陽の光を浴びて、巨大な足の裏が影を作る。薄汚れた靴下の生地、破れた隙間から見える皮膚の質感、そして硬そうな爪。 「グシャァッ!!」 次の瞬間、巨大な足裏が白い乗用車を真上から押し潰した。金属が悲鳴を上げる甲高い音、フロントガラスやサイドウィンドウが一瞬で粉々になる音、タイヤが破裂する鈍い音が連続して響く。 乗用車は、まるで空き缶のように、一瞬でぺしゃんこになった。屋根はフロアに張り付き、歪んだドアが不格好に突き出ている。エンジンオイルかガソリンか、黒い液体が潰れた車体からじわりと滲み出した。 佐々木の足裏には、硬い金属を踏み砕いた鈍い感触と、砕けたガラス片の鋭さが、薄い靴下の生地を通して伝わってくる。ほんのわずかな痛みすら感じたかもしれない。だが、彼の表情は変わらない。 スーツ姿の巨人が、片方だけ靴下(と素足)で、いともたやすく車を踏み潰す。その光景はあまりにもシュールで、滑稽ですらあった。しかし、そこにユーモアはなく、ただ圧倒的な破壊と、人間性が失われていくような空虚さだけが漂っていた。 佐々木はゆっくりと足を上げ、潰れた鉄塊となった乗用車を見下ろした。そして、また別の破壊対象を探すかのように、重々しく視線を動かし始めた。彼の巨大な足跡は、文明の残骸の上に、くっきりと刻まれていく。 陽が傾き始め、破壊された街並みをオレンジ色の光が染め始めていた。粉塵は少しずつ収まり、あたりには異様な静寂が訪れていた。佐々木健二は、自分が引き起こした惨状の中心に、ただ一人(一巨人?)立っていた。 潰れた車、へし折れた高架道路、半壊したビル群。それは彼が内面に溜め込んできたストレスと怒りが具現化した風景だった。彼はゆっくりと周囲を見回した。その表情は、もはや怒りでも苦痛でもなく、むしろ嵐が過ぎ去った後のような、奇妙な凪の状態にあった。 「ふぅ……」 巨大な肺から、長い溜息が漏れた。それは疲労のため息か、それとも、何かをやり遂げた後の安堵のため息か。 彼は、足元に転がる巨大な革靴(投げた方)には目もくれず、もう片方の靴も無造作に脱ぎ捨てた。ゴトン、と重い音を立てて革靴が瓦礫の上に落ちる。これで両足とも、薄汚れ破れた靴下(と一部素足)の状態になった。 スーツのネクタイを少し緩めるような仕草をする。もちろん、その動きですらビル風を起こすほどの規模だが、どこか日常の動作を思わせた。 そして、彼は踵を返した。破壊された街の中心に背を向け、夕陽に向かってゆっくりと歩き始めたのだ。 その歩みは、もう破壊を目的としたものではなかった。巨大な素足は、瓦礫を注意深く避けながら(それでも小さな建物くらいは踏み潰してしまうのだが)、着実に前へと進んでいく。まるで、長時間の仕事を終え、疲れ切って家路につくサラリーマンの後ろ姿のようだった。 巨大な背中が、夕陽に照らされて長い影を落とす。その影は、彼が破壊した街の上に、巨大な傷跡のように伸びていた。 彼がどこへ向かっているのか、誰にも分からない。元の大きさに戻るのか、それとも巨大なままどこかへ消えるのか。ただ、その背中には、破壊の衝動を出し尽くした後の、奇妙な「満足感」と、それと同じくらいの深い「虚無感」が漂っているように見えた。 破壊された都市のシルエットの中に、巨大なスーツ姿の男が、裸足で歩き去っていく。そのシュールで物悲しい光景を、生き残った人々はただ呆然と見送るしかなかった。
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