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観覧ゾーンにいるヨシキチとレイは、強化アクリルガラスの向こう側に目を凝らしていた。二人はワクワクした表情で話を交わす。
「はー、キョウイチ、どんな風に暴れてくれるのかなぁ……!」
「タツさんが暴れる姿、めっちゃ楽しみっす! 仕事の時以上の破壊が見られるかも!」
すると、遠くからズン……ズシン……ズシーン!……ズシイィン!と重厚な足音が複数近づいてくるのを感じる。強化アクリルガラスの向こう側、ビルの谷間からツナギ姿に金属バットを手に持ったタツヒコ、キョウイチ、ジュウゾウの3人の巨人が姿を現した。
「タツさん! キョウイチさん! ジュウゾウさん!」
ヨシキチが大きく手を振ると、レイもぴょんぴょん跳ねて応援の声を上げる。
「頑張ってねー! 楽しみにしてるよー!」
その声に気付いたタツヒコは、ヨシキチとレイの方を見やり、ニッと歯を見せて笑った。
『おう!ヨシキチ、レイ!しっかり見とけよ!』
そして、目の前にあった5階建てのビルに視線を落とすと、気合を入れて足を思いっきり蹴り上げる。
『おりゃっ!』
ズガアアアン!
強烈なキックを放つと、巨大なブーツによってビルの上半分が破裂したかのように吹っ飛んだ。コンクリートとガラスが空中で砕け散り、タツヒコは満足げに髭を撫でる。
『ハハ! こりゃあ気持ちいいぜ!』
続いて、タツヒコはすぐ近くにそびえる、自分と同じぐらいの高さの10階建てビルに目を向けた。左手に持つ金属バットを握り直す。そして左から右へと水平に思いっきり振り抜くと、ドガーン! と衝撃音とともにビルが砕け、建物は倒壊。普段の解体工事ではできないような荒々しいやり方でビルを崩したタツヒコは、思わず声を上げた。
『うおおぉ! これも中々に痛快だな! こんなやり方は仕事じゃ味わえねぇしな!』
豪快な暴れっぷりを加速させていくタツヒコの隣で、キョウイチも覚悟を決めたように小さく息を吐いた後、行動に移る。自分の膝ほどの高さの小さなビルの上に、足を高々と上げて、一気に踏み降ろす。ズガン!と音を立ててビルは粉々に。キョウイチは自分の破壊力に目を丸くする。
『うおっ、こ……こっちもこんな簡単に……!』
巨人達の大暴れによる地響きが観覧ゾーンにも伝わるが、強化アクリルガラスによって守られているため、瓦礫などが飛んでくることはなかった。安全な環境で迫力を味わえるこの仕組みに、レイは目を輝かせた。
「ふ、ふわぁぁ~~、ついに夢にまで見たキョウイチの大暴れが本当に見られるなんて……!」
レイは興奮を抑えきれず、スマホのカメラを構え、パシャパシャパシャと何度もシャッターを切る。
ヨシキチも、タツヒコが豪快に蹴りを放って破壊するのを見ながら胸が高鳴る。普段の解体工事以上に荒々しくビルを壊すタツヒコの姿に、興奮が伝染してきたのか、なんだか血が騒ぐような感覚が湧いてくるのだった。
「タツさん、な、なんだかよくわかんないっすけど、俺の心臓もなんだかドキドキします、すごいっす……!」
「うんうん、そうだよね!」
ヨシキチが呟くと、レイも笑顔で頷いた。
ヨシキチやレイに見られていることで興奮が高まるのを感じつつ、タツヒコが次に壊すものを探していると、少し広めの駐車場があるのを発見した。
『おい、キョウイチ! こっちに駐車場があるぞ! 車がいっぱいだ!』
キョウイチの方を向き、そう呼びかけた後、
タツヒコは意気揚々と駐車場の一角へと足を踏み下ろす。
ズズウウン!
音を立て、巨大な黒いブーツが自動車を下敷きにし、ペラペラの金属の板と化してしまう。
『くうぅ~、こっちもいい感触だな!』
噛みしめるように言うタツヒコの後ろで、追いついてきたキョウイチも駐車場へと足を踏み入れる。グシャッ!っと軽い音を立てて潰れた空き缶のようになってしまう自動車。
『確かに、ビルとかとは違った感触ですね……』
と控えめながら同意するキョウイチ。
駐車場の車を全て踏み潰し終えた2人は、それぞれまた勝手気ままに歩みを進めていく。ビルを蹴り進むタツヒコがふと足元を見下ろすと、4階建ての少し大きめのビルが目に止まった。上から見ると丁度カタカナのコのような形をしている、特徴的なビルだ。
『あれ、このビル、なぁんか見覚えがあるんだよなぁ……』
と呟く。そして頭にある記憶が蘇った。移築すると言われて、踏み潰せなかったあのビルだった。
『あっ!あの時壊し損ねたビルか!やっぱりここに運び込まれてたんだな』
そう合点が行った後、タツヒコはニイッと笑みを浮かべると、ズシン!と足を踏み降ろす。筋肉のみっちりとついた太い足が、あっという間にビルを踏み壊す。
『あの時はできず仕舞いだったからな!』
心残りだったことがようやくできたことで、満足のいった様子のタツヒコ。
一方、人間の2人も、巨人が移動するのに合わせて場所を移っていた。
「ヨシキチ君、今度はここからの眺めが良さそうだよ!」
「本当っすね、レイさん!」
人間用通路であるトンネルをくぐった後エレベーターに乗り、5階建てのビルの屋上を模して作られた観覧ゾーンへとやって来たヨシキチとレイ。目の前にいるタツヒコへ「おーい!」と大きく手を振る。
強化アクリルガラスの向こう側から応援する二人の視線を感じながら、タツヒコはさらに大胆な行動に出てみることにした。自分より少し大きな12階建てのビルに相対すると、金属バットをパッと手放した。
バットがゴロンゴロンと転がっていくのを放ったまま、タツヒコは空手の構えを取った。足を肩幅くらいに開き、両腕を構えるその姿は、40歳を越えた今でも衰えを感じさせない、精悍さを醸し出していた。
『おっしゃぁ、行くぞっ!』
気合と共に、思いっきり正拳突きを繰り出す。
ドゴオオォン!
巨大な拳がビルの中腹に直撃し、衝撃音とともに穴が開く。ガラガラガラと瓦礫が崩れ落ち、煙が立ち込める中、ビルはみるみるうちに崩れ去った。
『うおおっ、空手の技をこんな風に使っちまうなんて、なんかすげぇやっちゃいけないことやってるって感じがする……!』
そう口にするタツヒコは、まるでこっそりタバコを吸っているのが先生にバレた不良高校生のような、年甲斐もないはっちゃけた表情をしていた。興奮と少しの罪悪感が入り混じったその顔に、観覧ゾーンからヨシキチが笑い声を上げる。
その様子を見て側にやって来たキョウイチも、普段スポーツジムでボクササイズを教えているのを活かし、近場にあった9階建てビルに目を向ける。体を軽く前傾させ、顔の前で握り拳を構える。
『よし…やってみるか!』
シュッと素早く強烈なパンチを喰らわせると、ビルの上部が吹き飛ぶ。コンクリート片が空中で砕け散り、キョウイチは自分の力に驚きを隠せなかった。
『確かに、俺も不思議な感じです、タツヒコさん……!』
胸に手を当てながら呟くキョウイチの声には、真面目な性格ゆえの戸惑いと、新たな興奮が混じっていた。
観覧ゾーンでは、ヨシキチとレイがその光景に目を奪われていた。タツヒコが他のビルに前蹴りや回し蹴りを食らわせたり、キョウイチがパンチキックによってビルを次々と崩す様子に、二人の興奮も高まりまくっていた。
その後もタツヒコは巨大なブーツでビルを蹴ったり踏み潰したり、キョウイチも建物を粉々に踏み砕く。興奮の波に乗り、時間さえ忘れて暴れ続ける。
そこに、ジュウゾウが手を叩きながら声を上げた。
『おーい!そろそろ1時間経過だ! 終了の時間だぜ!』
その音と声に、ハッと我に帰ったタツヒコとキョウイチは、動きを止めた。タツヒコは周囲を見下ろすと、瓦礫が散乱し、自動車が空き缶のようにペシャンコになった光景に目を見開いた。キョウイチも同様に、自分の足元に広がる破壊の跡に息を呑む。
『いやー、脳内麻薬でてたなこりゃ……すげぇ集中してた……』
タツヒコがポキポキと肩を回し、腰に手を当ててグーッと伸びをしながらつぶやくと、キョウイチも短く返す。
『俺もです……』
二人の息が少し荒く、興奮の余韻が残っていた。ジュウゾウはその様子を見て豪快に笑い、2人に近づいてきた。
『ハハハ! どうだった、2人とも? 感想を聞かせてくれよ!』
タツヒコは髭を撫でながら率直に答えた。
『こりゃ最高だったぜ! 仕事じゃ味わえねぇ自由な感じがたまらんかった!』
キョウイチも少し照れながら口を開く。
『最初は戸惑ったけど……やっぱり身体を動かしてると気持ちいいですね』
ジュウゾウはニヤリと笑い、特にタツヒコを褒めた。
『さっすがタツヒコさんは手際が特に良かったぜ! 見てて惚れ惚れする、俺まで満足のいく大暴れだったぜ!』
ジュウゾウは親指を上げながらそう言った。
そろそろメインルームを出る時間となったため、タツヒコとキョウイチは観覧ゾーンからヨシキチとレイを呼び寄せ、掌に乗せた。
ヨシキチは興奮を隠せず、タツヒコの掌の上でぴょんぴょん跳ねながら叫んだ。
「タツさん、めっちゃすごかったっす! あの正拳突きでビル壊した時、シビれたっす!」
レイもキョウイチの掌で目を輝かせて加わる。
「キョウイチの踏み潰しもパンチも最高だったよ! 写真いっぱい撮っちゃった!」
タツヒコは豪快に笑い、キョウイチも複雑そうにしながらも、珍しく微笑んだ顔を見せた。
『人間のおふたりさんも楽しんでくれたなら良かったぜ!』
大興奮の人間2人に顔を近づけて、ジュウゾウも笑顔でそう言った。
タツヒコとキョウイチはロッカールームに移動し、着替えを済ませると、ジュウゾウの案内で建物の出口へと向かう。出口のドアの上部には、「ここから出れば、オオヒト区の規則を守ることを忘れるな。共存社会を生きる巨人としての自覚を持った行動を」と筆で書かれた文が掲示してあった。タツヒコとキョウイチは、その言葉をきちんと心に留めた。タツヒコは髭を撫でながら呟く。
『そうだな……当たり前だが、さっきまでやってたようなことを、この外でやっちゃあとんでもねぇことだからなぁ』
キョウイチも静かに頷き、ヨシキチとレイを掌に乗せたまま、RAGE ROOM RAMPAGEから出て行った。
『また来てくれよな!』
ジュウゾウの言葉を背に、ドームの外へと繋がる扉をくぐると、2人の巨人の姿はオオヒト区の街並みの中へと溶け込んでいった。
RAGE ROOM RAMPAGEから帰宅し、キョウイチやレイ、ヨシキチと解散したタツヒコは、日常へと戻っていた。
レイジルームで汗をかいた体を洗うためひとっ風呂浴びることにした。
日が沈む頃、自宅の台所で簡単に調理を済ませ、夕飯をとる。その後は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、ビール片手にテレビを眺め一息つく。うつらうつらし始めた頃、万年敷かれている巨大な布団にゴロンと横たわり眠りに就いた。
そんなタツヒコは、夢を見ていた。
足元に広がるのは、どこまでも広大に続く、無人の人間サイズの街。
『なんだ、ここ……?』
呟くタツヒコの声が、しんと静まり返った街に響く。ただ呆然と立ち尽くすタツヒコはふと、ああ、そうかここはあのレイジルームみたいなもんか、という考えがひらめき、ひとり納得する。
『じゃあ、ここの建物はぶっ壊してもいいってことだよな』
ニッと笑みを浮かべると、膝にも満たない高さの建物へと足を振り上げ、一気に振り下ろす。ズズン! と音を立てて崩壊する建物に、タツヒコの心が躍る。
『おっ、こっちには駐車場があるじゃねーか!』
駐車場に10台ほど停車してあるのを発見すると、自動車を立て続けに踏みつけまくってペシャンコに潰れた金属の板へと変貌させる。ドクドクと脈動が加速するのを感じながら、タツヒコは今度は高架橋を蹴り上げる。
『うおりゃっ!』
タツヒコの太い足が、高架橋をめちゃくちゃに崩落させてしまう。ヒートアップしてきたタツヒコは、間を置かずに今度は川にかかる大きな橋に目をつける。
『おっ、川に橋がかかってんな。これもぶっ壊しちまうか!』
そう言うと川の水で濡れることなど厭わずに、ザブザブと分け入っていく。そして川の真ん中あたりで橋の前に立つと、右足を大きく持ち上げ、空中でピタリと止める。一瞬の間の後、躊躇なく一気に踵を橋へと打ちつけた。
ズガガアアアン!
橋に踵落としを食らわせた瞬間、えもいわれぬような快感が身体の芯から湧きあがり、全身を突き抜けていくような心地がした。
『う……ぐぅっ……!』
少しの脱力感を覚えつつ、再び踵落としを喰らわせようとした――その時、タツヒコはパッと目を覚ました。
『……んあ?』
無人の人間の街で暴れていた夢から覚めたタツヒコは、寝ぼけ眼を擦る。しばらくボーっとした頭で考えて、今のが夢だったことに思い至ると、布団の中で大きく息を吐いた。
『はぁっ……ったく、なんつー夢見てんだ。レイジルームの体験がよっぽど楽しかったのか? 俺の脳よ……』
あまりにも欲望に忠実な夢を見たことに自ら突っ込みを入れた。
しかし、ふと股間にぐしょっとした違和感を感じ、慌ててパンツをグイッと引っ張った。パンツの中の光景に、タツヒコは頭を抱えた。
『うおおっ、なんじゃこりゃっ!……こんな歳にもなって、 どんだけ元気なんだよ、参ったなぁ……』
呟きながら、下着を処理するために、タツヒコはよっこいしょと重々しく立ち上がった。その口元には、照れくささと自嘲の混じった笑みがわずかに浮かんでいた。
終わり
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