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『巨人狼?』
タツヒコさんが、タクトさんから聞いた言葉をそのまま聞き返した。
『そっす。ちょっとしたゲームなんですけど、少しやってみませんか?』
ここはタツヒコさんの家。
『寒くなってきたし鍋でもしようぜ!』というタツヒコさんに呼びかけられて、俺と、レイさん&キョウイチさんのカップル、そしてタクトさん、タクマさん、ソウタさんの、「居酒屋てる」常連巨人の3人組の、計7人が集まって、鍋パーティーをすることになった。
タツヒコさんの作る美味しい鍋をごちそうになって、一息ついた頃。タクトさん達3人から、あるゲームを持ちかけられたのだ。
タクトさんの説明によると、こういうゲームらしい――
あるところに平和な人間の村があった。その村に、人喰いの巨人狼が紛れ込んだという。
巨人狼は、昼の間は人間の姿に化け、嘘をついて正体を隠しているため、村人達には誰が巨人狼なのか分からない。
そして巨人狼は、夜になると元の姿に戻って、村人を襲撃して捕食してしまう。
毎晩、ひとり、またひとりと村人は数を減らしていく……。
そこで村人達は、毎朝会議を開き、巨人狼と疑わしい人物を1人選び、処刑することに決めた――。
『……まあ要するに、村人陣営と巨人狼陣営に分かれて、紛れ込んだ巨人狼を見抜ければ村人の勝ち、嘘がバレずに村人を喰い続けられれば巨人狼の勝ち、っていうゲームなんですけどね。動画サイトに遊んでるところアップしてる人とかいて、面白そうだなーと思って。ちょっとやってみませんか?』
とタクトさん。
『へー、結構面白そうじゃねえか。いっちょやってみるか!』
タツヒコさんは乗り気な様子で、口の端をニッと吊り上げた。タツヒコさんは、こういう勝負事みたいなのは結構好きみたいだ。
俺も、なんだかワクワクしてきて「そうっすね!面白そうっす!」と巨人に負けないように声を張り上げた。
レイさんも「面白そうだね。やってみよう?」と、キョウイチさんを誘っている。
『む……俺はあんまり嘘とか演技は得意じゃないけど、レイがそう言うなら、ちょっとやってみるか』
と、キョウイチさんはあまり自信はなさそうだったけど、最後は覚悟を決めたような表情で参加する意思を示した。
『良かった! 俺達、前からやってみたかったんですけど、ある程度人数が必要だから、なかなか実際にプレイできてなかったんですよね』
『そうそう』
タクマさんとソウタさんが、互いに頷き合いながら言った。
タクトさんも、嬉しそうに俺達に笑顔を向けて話す。
『よし、じゃあ早速始めてみましょうか! ルールをもう少し説明すると、さっきも言った通り、村人陣営と巨人狼陣営に分かれて、話し合いをしてそれぞれの陣営の勝利を目指すゲームって感じっす。村人陣営は、巨人狼を追い出したら勝ち。巨人狼は、村人を自分と同数まで減らしたら勝ち。で、村人陣営には、ただの村人以外にもいくつか役職があるっす』
と言いながら、タクトさんは何枚かのカードを取り出した。タクトさんにとっては掌サイズだが、俺からすると布団ぐらいの大きさがある。
『例えば占い師は、毎晩別の誰かを占って、その人が巨人狼かそうではないかを判別することができる役職っす。他にも騎士は、毎晩巨人狼の襲撃から自分以外の誰かを一人守ることができるっす。今回は村人3人、占い師1人、騎士1人、巨人狼1体でやってみましょっか。あと、今回は俺がゲームマスターをやるっすね』
「ゲームマスターって?」
俺が尋ねると、タクトさんが
『簡単に言うと、ゲームの進行役っすね。話し合いの時間を計ったり、誰が喰われたのか発表したりするっす』
と解説してくれた。
『役職は、このカードをランダムで配るんで、それで決めていきまーす』
タクトさんは、手にしていたカードをシャカシャカとシャッフルし、表面を伏せてみんなの前に1枚ずつ配った。
『じゃあ、ひとりずつ、自分にだけ見えるようにカードをめくって役職を確認していきましょう。めくった時のリアクションも、推理のヒントになるから皆さんしっかり見ててくださいねー。あ、ヨシキチ君とレイ君はめくりづらそうっすから、ゲームマスターの俺がめくるっすね』
タクトさんの進行で、タクマさん、ソウタさん、レイさん、キョウイチさん、タツヒコさん、そして俺の順番で、それぞれ役職を確認していった。
タクマさんは、カードを見た後も、いつも通り朗らかな感じで、でもちょっとドキドキしているような気もする。
ソウタさんは、カードを伏せてから、フーっと息を吐いていた。
レイさんは、あまり普段の様子と変わりなく、ニュートラルな感じだ。
キョウイチさんは、口を真一文字に結んで、やや緊張感が漂った表情をしている。
そして、隣にいるタツヒコさんの顔を見上げた時には、ニヤッと口角を上げていた。
……うーん、これだけだと誰が巨人狼なのか判断するのは難しそうだ。
最後に、俺が確認する番になった。タクトさんの大きな手の指先が、俺の目の前に伏せてある布団サイズのカードを、そっとめくった。俺だけに見えているカードの表面には、光る水晶を覗き込む人物のイラストが描かれていた。
なるほど。俺の役職は占い師か。
俺は合図して、役職を確認し終えたことをタクトさんに伝える。するとカードは再び伏せられ、タクトさんの巨大な手もスッと引っ込まれた。
『じゃあ、全員見終わったところで、まずは役職の確認のため、夜のターンに入るっす。みんな目を伏せて眠りについてくださーい』
タクトさんの指示で、全員伏せる。
『それでは、巨人狼の人だけ目を覚ましてくださいっす』
この瞬間、巨人狼だけが顔を上げて俺達を見下ろしてるのか……と思うと少しドキドキした。
『はい、了解っす。じゃあ巨人狼さんはまた伏せてください。じゃあ次は占い師の人、目を覚ましてくださいっす』
俺はそっと目を開けて、顔を上げる。他の巨人4人と人間1人が机に顔を伏せているのと、タクトさんがこちらを見下ろしているのが見えた。
『はい、それでは占い師さん。今晩誰を占いたいか教えてくださいっす』
そう問われて、俺はちょっと困惑した。5人の中にいる巨人狼をピンポイントで当てるのは、なかなか難しそうだ。まだ誰が怪しいのかの見当も付いていない。……でも、強いて言うなら、カードを見てニヤッと笑っていたタツヒコさんが怪しい、のかもしれない。それにもし、占いの結果タツヒコさんが村人である事が判明すれば、心強い見方になってくれそうだ。
そう思って、俺はタツヒコさんを指差した。
『はい、了解っす。その人はコレっす』
タクトさんは、両手の人差し指でバツを作った。マルが巨人狼のサインで、バツが村人のサインだと先ほど説明を受けていた。
そっか。タツヒコさんも村人なのか。そう思うと、ちょっとホッとした。
『じゃあ占い師さんも再び眠りについてくださーい』
タクトさんの指示に従って、俺は顔を伏せる。
『それでは、夜が明けました。みんな起きてくださーい!』
俺が顔を上げると、他の人も同じように顔を上げているところだった。
『これから朝の会議を始めます。話し合いで、巨人狼と疑わしい人を探ってください。時間は2分っす。では、会議スタート!』
タクトさんはスマホでアラームをセットし、スイッチを押した。
『さて……この中に1人巨人狼がいるってことだよね』
少し眉を下げながら言ったのはタクマさん。そして、そこから様々な意見が飛び交い始める。
『ソウタ、カード見た後ため息ついてなかった?』
『いや、村人だったからホッとしたからで! そう言うタクマもちょっとソワソワしてなかったか?』
『いやいや! 俺は、今回始めて巨人狼するからちょっとテンションあがってて……』
とか
「ヨシキチ君は、何か役職があるような気がするんだよね~」
『……俺もそう思う』
「えぇっ? いや、そのー……」
なんてやりとりをわちゃわちゃやってると、話がまとまらなくなってきた。
その時、タクトさんの『あと1分でーす』と、残り時間を知らせる声が聞こえてきた。
するとタクマさんがみんなに質問を投げかけた。
『役職見たときのリアクションで、他に何か気になった人はいる?』
それに対し、ソウタさんが小さく手を上げながら発言した。
『俺、タツヒコさんがカードめくった後ちょっとニヤっとしてたのが気になったような……』
いきなり話を振られたタツヒコさんが、びっくりしたように肩を震わせ、
『お、俺か!? 俺は違うぞ、絶対村人だからな!』
と大声で潔白を主張した。しかし、
『俺も笑ってたようなのがちょっと気になっていました』
タクマさんも、ソウタさんの意見に同調するように頷いた。
ヤバい。タツヒコさんが疑われてる……。タツヒコさんは巨人狼じゃないって占いの結果が出ているのに。
ていうか今この場でタツヒコさんは違うって証明できるのは、俺だけ、のはずだよな。
「お、俺はタツヒコさんは巨人狼じゃないと思うっす!」
なんとかタツヒコさんを助けないと!っと思って俺は咄嗟に叫んでしまった。すると、レイさんが俺の目をじっと見つめてくる。そして
「じゃあ、何かそう思う根拠があるの?」
と尋ねられてしまった。
う……そりゃあ占いで分かってるからだけど……このタイミングで、俺が占い師だと名乗り出ても大丈夫なんだろうか? 巨人狼にも正体を知られるわけで、そうなったら、巨人狼の脅威である占い師は真っ先に餌食にされてしまうはず。……いや、騎士がいるから、俺を守ってくれれば……。
そんなことをグルグルと考えていると、タクトさんの『あと10秒です』という声が。
くっ、こうなったら……!
「俺、占い師っす!んでタツヒコさんを占ったら村人だって出ました!だからタツヒコさんは違うっす!あと、騎士さん俺を守って欲しいっす!」
俺は言いたい事を一気にまくしたてた。するとタツヒコさんは、驚いた顔で俺を見下ろす。
『お、おおっ!? 俺の無実を証明してくれんのか? よーしよし、偉いぞー!』
タツヒコさんが、木の幹のような太さの人差し指で俺の頭をガシガシと撫で回してくるので、俺はしばらくタツヒコさんの指のなすがままにされていた。そうこうしてるうちに、スマホのアラームがピピピっと鳴って、『はーい議論終了でーす』とタクトさんが会議の時間の終わりを告げた。
『じゃあ、会議の内容を踏まえて、一番怪しいと思う人にせーので指をさしてください。いきますよー?せーのっ!』
タクトさんの掛け声と共に、全員が思い思いに指をさす。結果、一番票を集めたのは、3人から指をさされたソウタさんだった。
「タツヒコさんが巨人狼じゃないっていうのを信じるのなら、そのタツヒコさんを疑ってたソウタ君かなぁって思って」
ソウタさんに1票入れたレイさんが、その理由を答えた。
『えぇー!? そんなぁ』
当のソウタさんは、驚いてうなだれていた。
『俺もレイと同じ理由でソウタに入れたぞ』
「俺もっす!」
タツヒコさんに続いて、俺も答えた。
キョウイチさんを指したタクマさんは、まだ決めかねてるといった雰囲気だけど、理由を説明してくれた。
『うーん、俺はとにかく、今議論の中心だったタツヒコさんやソウタ、ヨシキチ君は外しといた方が良いかなぁっと思って、あまり喋ってなかったキョウイチさんに何となく入れてみました』
『……俺も、いまいち良く分からなかったから、勘で入れた』
タクマさんを指さしたキョウイチさんも、そう短く答えた。
『会議の結果、処刑されるのはソウタになりましたー!』
『うーん、残念……』
ソウタさんはがっかりとしながら、テーブルから少し下がった位置にズシンと座り直した。脱落した者は、一切喋ったりヒントになるような動きをしてはいけないルールだからだ。
『さーて、処刑を行ったにもかかわらず、恐ろしい夜がやって来たっすよー。みんな眠りについてくださーい!』
タクトさんの号令で、みんな顔を伏せる。
『では巨人狼さん、起きて今晩誰を餌食にするのか教えてくださいっす』
しばらく静かな時間が過ぎた後、
『分かりました。ではもっかい伏せてください。次は占い師さん、起きて誰を占うのか指定してほしいっす』
タクトさんの指示に従って、俺は顔を上げる。今度はタクマさんを占おうと思っていたので早速指さした。
『了解っす。その人はこうっす』
タクトさんが、指でバツを作った。それを確認して、俺はタクトさんに頷いて見せた。
『では占い師さんも伏せてください。次は騎士さん、起きて今晩誰を守るのか教えてくださーい』
またしばらく静かな時間が流れてから、
『オッケーっす。では伏せてください。……さて、朝がやってきましたよー!みんな起きるっす!』
タクトさんが皆に声をかける。全員顔を上げたのを確認した後、タクトさんは発表した。
『この日……なんと、襲われた人はいないっす!』
一瞬、みんなの頭の上に「?」が浮かぶ。しかし
「それってつまり……騎士が誰かを守ったってこと?」
レイさんの言葉に、みんなおぉーっと声を上げた。そして誰とも分からない騎士へ向けてパチパチと拍手が沸き上がった。
『じゃあ今から2分間、朝の会議スタートっす』
タクトさんの進行により、再び朝の会議が始まる。最初に口を開いたのはタクマさんだった。
『巨人狼はきっと、占い師のヨシキチ君を襲おうとして失敗したみたいだね。それでヨシキチ君、今回は誰を占ったのかな?』
俺は素直に答える。
「タクマさんを占いました。そしたら村人だって出ました!」
『おっ!そうか! だったら俺の疑いも晴れそうだな!』
タクマさんは嬉しそうに笑った。
「いやいや、まだ信頼するのは早いかもですよ~? ヨシキチ君が巨人狼の可能性だって捨てきれないんだし」
レイさんが、そんなタクマさんに釘をさすように言う。
『うーん、そりゃあ、ヨシキチ君が絶対占い師だとは言い切れないけど……』『でも嘘を付く理由なんか……』『いや、もしかしたら、自分が疑われないために占い師を名乗ってる可能性だって……』などと憶測が飛び交う。
そんな中、話題を変えるように、タクマさんはキョウイチさんの方へ向き直った。
『前回の会議でもあまり口数が多くなかったですけど、キョウイチさんはどう思います?』
この時、タクマさんも、特別確信があってキョウイチさんに話題を振ったんじゃないと思う。でも、全員の目が集中したキョウイチさんは、なぜか妙に硬くなっていた。
『お、俺、は……巨人狼じゃない……ぞ?』
かろうじでそう話すキョウイチさんの額には汗がにじんでいて、話し終えた後に固く結んだ口は真一文字を通り越して若干への字になってしまっている。
その発言や表情から、なんだかもう色々と明らかだった。恋人であるレイさんですら「あーあー……」みたいな顔をしてキョウイチさんを見上げている。
結局そのままキョウイチさんは自分への疑いを晴らせないまま、会議の時間が終了し、5票も入れられたキョウイチさんが処刑される羽目に。
『さて、皆さんを脅かす巨人狼はもういません!村人陣営の勝ちっす!』
タクトさんの発表で、あっさりとこのゲームの勝負がついたことが明かされた。
『おっしゃあ!勝ったぜ!!』
タツヒコさんが嬉しそうにガッツポーズを決めている。そして俺を見下ろして、布団サイズのでっかいカードを指先で摘み上げ、その表面を見せながら話してくれた。
『俺、騎士だったんだよ! 面白そうな役もらったなーって思わずニヤッとしてたら疑われちまって焦ったけどよ』
なるほど、あの笑みはそういう意味だったのか。
『で、占い師が襲撃されそうだなぁと思って、ヨシキチを守ってやってたんだ』
「えっ、そうだったんですか!? ありがとうございます、タツヒコさん!」
タツヒコさんが俺を守ってくれてたのか!と嬉しくなった俺はタツヒコさんの指にギューっと抱きついて、感謝の気持ちを示した。その一方で、ズーンと肩を落としているキョウイチさん。
『くそー……やっぱり俺、嘘吐くの下手だなー……』
レイさんが、キョウイチさんの手元まで駆け寄って、指をよしよしと撫でて慰めていた。
「まぁまぁ、そこがキョウイチの良いところだしね。今回はツイてなかったね」
『ははっ。まあ、巨人狼ひとりで嘘突き通さないといけないのは大変だったかもなぁ。じゃあ、今度は狂人を入れてもっかいだけやってみないっすか?』
タクトさんが、皆が持っていたカードを回収しながらそんな提案をした。
『狂人?』
キョウイチさんが聞き返す。
『狂人っていうのは、村人でありながら、巨人狼側に味方する役職っすね。巨人狼が勝つと、狂人も勝ち判定になるっす。ただし、巨人狼からは誰が狂人かは分からないし、狂人からも誰が巨人狼なのかは分からないところが注意点っすね。あと、占いされた時は村人だという結果が出るっす』
なるほど、そんな役職もあるのか。そうなると、余計に巨人狼を探り当てるのが難しくなりそうだ。
『そうか……。それなら、万が一もう一度俺が巨人狼になってもなんとかなるかもしれないな。それに、このまま負けたまま帰るのも悔しいから、もう一回やってみよう』
キョウイチさんはレイさんに慰められたからか、気を取り直したようにグッと拳を握り締めて、そう呟いた。レイさんもそれを聞いてうんうんと首を縦に振っている。
「確かに、俺も面白そうだと思います! タクトさん、やりましょう!」
俺もタクトさんに向かってそう言った。するとタクトさんはニカッと笑って
『よっしゃ! それじゃあ決まりっすね!』
と、嬉しそうに声を上げた。そんなタクトさんに、タクマさんが声をかける。
『じゃあ、今度は俺がゲームマスターやるよ。タクトもプレイヤーやってみたいだろ?』
『お、そうか。ありがとなタクマ!』
とお礼を言ったタクトさんは、持っていたカードの束をタクマさんに手渡した。タクマさんは、その束から村人のカードを1枚引き抜き、代わりに狂人のカードを入れて、何度かシャッフルした後みんなの前に配った。
『では、第2回戦開始です。ひとりずつ役職を確認していきましょう』
タクマさんの進行に沿って、1回戦と同じようにカードをめくって確認していく。
皆、さっきよりもポーカーフェイス気味で、読み取れることが少ない感じだった。あのキョウイチさんですら、強面の顔に多少力が入ってるものの、見るからに怪しいといった雰囲気は無い。
一通り互いの反応を確認した後、ゲームマスターの巨人狼の確認と、占い師が誰を占うのかを決める時間が取られる。
『それでは、朝が来ましたので全員起きてください』
タクマさんに促されて、全員が顔を上げる。
『では今から2分間、朝の会議スタートです』
タクマさんの合図の後すぐ、レイさんが両手を上げながら発言した。
「僕、占い師です! ヨシキチ君を占ったら村人って出ました!」
『えっ……? 占い師は俺なんだけど』
ソウタさんがきょとんとしながら答える。
『どういうことだ?』
キョウイチさんも、眉間にしわを寄せて、ちょっと戸惑ったように言った。
『っつーことはつまり……レイとソウタのどっちかが嘘吐いてる狂人ってことか?』
と、片方の眉を上げて話すタツヒコさん。そこにタクトさんが付け足すように言う。
『嘘をついてるのが、巨人狼の可能性だってあるっすよ』
うーん、なんだか1回目の時よりも複雑になってきた気がするぞ……。
『ソウタは誰を占ったんだ?』
キョウイチさんが尋ねると
『俺もヨシキチ君。村人だって出ました』
と返すソウタさん。
それなら、俺はどちらの占い師からも疑われてないってことなのかな?
なんて風にひとりで安心してる間にも、そいつはカードを見る時間が長かっただとか、あいつはカードを見た後耳が赤くなってなかったか?とか、みんなそれぞれの証言を元にガヤガヤと議論していく。でも、結局結論が出ることはなく、時間切れになってしまった。
『はい、じゃあここで投票タイムに入ります!』
タクマさんがそう宣言すると、各々一番疑わしい人を指さす。
一番票を入れられたのは、3票のタクトさんだった。
『とりあえず、レイとソウタとヨシキチ以外に票入れようと思ってよ。キョウイチに入れるか迷ったけど』
「俺もそんな感じっす!」
「僕もだよ」
タツヒコさんの意見を筆頭に、俺とレイさんも投票の理由を答えた。
ソウタさんはキョウイチさんに入れて1票、タクトさんとキョウイチさんはタツヒコさんに入れて2票集めることとなった。
『では、朝の会議の結果、処刑されるのはタクトです!』
『うがー!くそー!できればもっと長く生き残りたかった……』
タクトさんは相当悔しそうに呟きながら、少しテーブルから身を離した。
『さぁ、疑わしい人を処刑したにもかかわらず、恐ろしい夜がやって来ました。全員眠りについてくださいね』
タクマさんのアナウンスで、全員が一斉に顔を伏せた。ゲームが続行しているってことは、まだ巨人狼が潜んでいるということだ。
『巨人狼さんは目を覚まして、今晩のターゲットを選択してください』
しばらくの間の後、
『はい。分かりました。では眠りについてください。では続いて占い師さん。今夜占いたい人を指定してください』
それからまたしばらくして
『分かりました。この人はこうです。では伏せてください。……続いて、騎士さん。目覚めてください。そして今日、巨人狼の襲撃から守りたい人を選んでください』
今回は特別な能力のない村人だからか、顔を伏せている間のドキドキ感もさっきより増しているような気がする。
やがて、今晩の皆の夜の行動が決まったようで、タクマさんが全員に呼びかけた。
『皆さん、朝になりました。起きてくださーい!』
皆が顔を上げると、タクマさんが続けて発表する。
『さて、皆さんが目を覚ますと、一軒の家の屋根に無残にも大きな穴が開いてるのが見えました。……そこはキョウイチさんの家でした。そしてキョウイチさんの姿はどこにも見当たりません。恐らく巨人狼に食べられてしまったのでしょう。ということで、キョウイチさんはここで脱落です』
タクマさんの宣言に、
『むぅ……そうか……』
キョウイチさんは残念そうに俯いて、少し後ろに身を引いた。
『それじゃあ、朝の会議を始めましょう。時間は2分です』
タクマさんの仕切りで会議が始まった途端に、レイさんが大きくアピールするかのように両手を振りながら言った。
「はいはーい!僕、タツヒコさんを占いました! 村人だって出ました!ヨシキチ君とタツヒコさんが村人だから、巨人狼は絶対ソウタ君です!」
『ええっ? 違うよ、俺がタツヒコさんを占って、巨人狼だって出たんだ!だから巨人狼はタツヒコさん!』
真っ向から意見が食い違うふたり。
でっかいソウタさんを相手にしても、全く気圧されずに意見を主張するレイさんと、若干押され気味な様子のソウタさん。
しばらく「巨人狼だ!」『巨人狼じゃない!』と押し問答が続いた後、タツヒコさんが口を開いた。
『俺から見れば、レイとソウタのどっちかが狂人なんだと思うんだよなー。で、俺を陥れようとしてくるソウタが怪しいと思う』
そう……なんだろうか。でも確かに、強いて言えば、いの一番に発言しているレイさんの方が信用できる……のかな?という気がした。ソウタさんの発言は、後手後手に回っている印象だった。
『はーい、議論終了です!投票タイムに移ります』
タクマさんの合図に合わせて、みんな一斉に、疑わしい人物に指をさす。
ソウタさんは自分の宣告通りにタツヒコさん、レイさんも先ほどの主張通りにソウタさんを指さした。タツヒコさんもソウタさんを、そして……俺もソウタさんを選んだ結果、ソウタさんが3票集めて処刑されることになった。
『ぃよっしぃ! これで村人側の勝利だな!』
タツヒコさんが嬉しそうにガッツポーズをしてるところを見ると、どうやら本当にタツヒコさんは巨人狼ではないらしい。俺はホッとため息をついた。
そんな中、タクマさんが『では今回の会議で、ソウタが脱落となります』と宣言する。
『そっか、まぁ……こうなったらもう仕方がないね……』
残念そうに微笑みながら、ソウタさんはテーブルから少し身を退いた。
と、ここでタクマさんが突如、全員の注目を集めるようにパンパンと手を叩いた。
『はーい、もう騎士が生き残っていないので、この時点で村人がひとり必ず捕食されるのが確定して、巨人狼の勝ちとなりました! 今回のゲームの巨人狼は――』
タクマさんがそう言いかけたところで、突然、俺の身体が宙に釣り上げられる感覚に襲われた。
「えっ、うわあっ!?」
思わず声を上げてしまう俺。すると、俺の目の前には……。
舌なめずりをしながら、ジロリと大きな瞳をこちらに向けるタツヒコさんの顔があった。
『へへへ……悪いなヨシキチ』
そう言うと、ほくそ笑むような視線で俺を睨みつけたまま、タツヒコさんはゆっくりとその巨大な口を開ける。大きな歯が露になり、その向こうに巨大な軟体生物のような赤い舌が覗いている。
「ま、まさかタツヒコさんが……」
俺が呆然としている間に、俺を摘んだタツヒコさんの手が更に上空へと移動し、俺はタツヒコさんの口の真上で宙ぶらりんになってしまった。下から、タツヒコさんが吐いた息が吹き上がってくる。先ほどまで食べていた鍋の出汁の臭いが漂ってきた。そして下を見る俺の視線の先、歯と歯の間に、鍋の具材だった肉の欠片が挟まっているのが見えた。
お、俺もああなっちゃうのか……!?
「う、嘘ですよねタツヒコさん……助けてぇ!」
俺が必死に叫んでいると、タツヒコさんはニヤニヤと笑いながら『あ~ん』と更に大きく口を開け、手をゆっくりと降ろしていく。
赤くテラテラと不気味に光る舌が、俺を待ち構えるかのように口から飛び出している。
その舌にあと数10センチで着地してしまう……というところで、
『はい、そこまでー! もう、タツヒコさん、結果を発表する前にネタバレしないでください!』
タクマさんがストップをかけてくれたおかげで、タツヒコさんは慌てて口を閉じ、俺を静かにテーブルへと降ろした。
『ははは、わりぃわりぃ。ちょっと面白そうなこと思いついちまったもんだからよ』
『まったくもう……。それじゃあ、もうバレちゃったけど改めて発表しちゃいます。今回の巨人狼は、タツヒコさんでしたー! そして狂人はレイ君でした!』
タクマさんの宣言で、村人側はええっ!と声を上げた。
『よーしぃ!また勝ったぜー!』
タツヒコさんが両腕を突き上げて喜びの声を上げる。そして左手を下ろすと、人差し指をレイさんの方へ向ける。すると
「やりましたね! タツヒコさん!」
『おう!』
レイさんはタツヒコさんの指に掌をパンッと合わせ、ハイタッチのようなことをしていた。
「僕、最初の役職確認の時から、なんとなーくタツヒコさんが巨人狼じゃないかなーって目星を付けてたんだよね。だから占い師を騙って、タツヒコさんを村人だってことにして、僕が狂人だって気付いてもらおうとしたんだよね~」
と、レイさんは種明かしをしてくれた。
タツヒコさんも、イタズラがバレた後のイタズラッ子みたいな表情で話してくれた。
『おう、レイが俺を村人だって言ってくれたから、すぐに狂人だって気付いたぞ!』
なるほど、俺達が気付かないうちに、巨人狼陣営で結託が出来上がっていたのか……。
『お、俺は騎士だったんだけど、レイを守っちまってた……』
キョウイチさんは、がっくりとしながら打ち明けて、「あらら、狂人の僕を守ってくれてたんだ~。ありがとね~キョウイチ~」とレイさんはニンマリ勝ち誇ったような顔をしていた。それを見ながら、
『はははっ、まあ、こういう騙し合いがあってこその、巨人狼ゲームですからね~。俺は結構楽しめたけど、皆さんはどうでした?』
とタクマさん。
『俺も楽しかったぞ!なんせ2勝したからな!』
ガハハと笑うタツヒコさん。レイさんもそれに続いて
「僕も! ハッタリ仕掛けるのはドキドキしたけど楽しかったー!」
と、満面な笑顔を見せた。一方キョウイチさんは
『……俺は負けちまったけど、次は勝てるようにがんばりたい』
ちょっと悔しそうに顔を歪めていた。
「あ、じゃあ僕が演技指導つけてあげるよ~。本性を隠す、恐ろしくて悪辣な人喰い巨人狼……どんな風に演じてもらおうかな~……!」
レイさんが、目を閉じて頬に手を当てて、自分の妄想の世界へ入り込んでしまったのを見て、
『うっ……、そ、それは勘弁してくれ……』
と、キョウイチさんはたじたじになっていた。それを見ながら苦笑するソウタさん。
『はははっ、俺も、今回はあんまり長生きできなかったから、次は最後まで生き残れるようにしたいなぁ』
俺も、思ったことを素直に口に出す。
「俺も……勝ち負けはともかく、騙されたー!っていうのも含めて面白い体験でした」
そしてタツヒコさんの方に向き直る。
「でもっ!いきなり食べようとするフリは止めてください!ホントにびっくりしたんですからね!」
と俺はプンスカ怒りながら言った。タツヒコさんも流石にきまりが悪そうに
『いやぁ、すまなかったな。最後まで生き残ったから嬉しくなっちまって、巨人狼の気分のままつい、な?』
と言って左手で頭をポリポリ掻きながら、申し訳無さそうに右手を顔の前に立てる。その表情は、巨人狼だった時のタツヒコさんのものではなくなっていて、すっかり元のタツヒコさんの顔に戻っていた。
そしてタツヒコさんは、右手を俺の頭上まで持ってきて、人差し指で俺の頭を、詫びるように優しく撫で始めた。
時々、こうやって急に摘み上げられたりとか、作業着の胸元にポイッと放り込まれたりするのだが、こんな風に謝られると許したくなっちゃうのが、この人のズルいところだ。
むしろ普段は巨人一倍、人間には丁寧に接するタツヒコさんが、こうして俺には気さくに接してくれるのは、実は結構嬉しいことだったりもする。
……だからと言って、食べられるのは勘弁だけど。だから俺は、
「もぅ、これからは気をつけてくださいね?」
と、今回の巨人狼ゲームでほんのちょっとは向上したであろうポーカーフェイスで、それだけ言った。
そんな俺達2人のやりとりを見た後、タクトさんが
『ははっ、まあ、みんなにも気に入ってもらえたんなら俺も嬉しいっす。もうちょっと人数が多いと、巨人狼2体とか、もっと違った役職入れたものもできたりするんで、また人数が集まったときなんかはやってみましょうね』
と笑顔で言って締めくくった。
そろそろ良い時間なので、鍋パーティーもそのままお開きになった。
ソウタさんが『あんまりやり過ぎると人間不審・巨人不審になっちゃいそうだな~』と言ってたり、レイさんが「普段のキョウイチもカッコイイけど、巨人狼になっちゃったキョウイチも、それはそれで……」と相変わらずうっとりしながら呟いているのを聞きながら、みんなで後片付けをする。
その間にも、俺は、タツヒコさんの口まで持っていかれた時のドキドキ感が、密かに収まらずにいるのを感じていた。謝られたし、別にもう根に持ってるわけでもないんだけど……このドキドキ感がどこから来るものなのかは、自分でも分からなかった。
終わり
〈オマケ〉
その日の夜。気が付くと、俺は雪深い山村の、一軒の家の中で暖炉に火を入れている最中だった。
暖炉なんて普段めったに見ることもないのに、俺はなぜか自然な手つきで薪を足して炎の大きさを調整していたりする。
パチッ、パチッという薪の音を立てて炎が燃えているのを眺めていると、玄関の方からドンッドンッと扉をノックする音が聞こえてきた。
玄関へと向かい、鍵を外して扉を開ける。すると現れたのはタツヒコさんだった。
人間サイズで俺の前に立っているタツヒコさんに特に何の違和感も持たず、俺は話しかける。
「あれ? タツヒコさん、どうしたんですか?」
「あぁ、ちょっとお前さんに用事があってな」
そう言うとタツヒコさんは、若干そわそわと部屋に入りたそうな素振りをしている。こんな夜遅くに何だろう、と思いつつも俺はタツヒコさんを家の中に招き入れることにした。
「まあ、ここじゃ寒いですし、とりあえず中に入ってください。お茶くらい出しますよ」
「おっ、ありがとな」
タツヒコさんは礼を言いつつ、そのまま家へと入っていき、こちらに背を向けたままリビングのテーブルの前で立ち止まった。
「それで、用事って言うのは?」
異様な雰囲気のまま立ち尽くすタツヒコさんに俺がそう尋ねると、タツヒコさんは振り返ることもなく、何やらブツブツと呟き始めた。
「いや、なに……ちぃっと腹が減っちまったもんでよ……」
「えっ?食料の貯蔵なくなっちゃったんですか? 少しでよかったら、野菜とか差し上げましょうか?」
「……」
なぜか無言のままのタツヒコさん。
「あの、タツヒコさん?」
俺が恐る恐る声をかけると、
「いやぁ……んなもんは喰ってらんねぇよ……だって……」
と言って、ようやくこちらを振り向く。その瞳は赤黒く輝き、狂気的な光を放っていた。
「俺が喰いてぇのは、お前なんだからよ!」
そして次の瞬間、タツヒコさんの髪の毛が逆立ち、口が大きく裂け、牙が伸びていくのを目撃した。
「ひっ!?」
思わず尻餅をつく俺。そんな俺を見下ろしてニヤリと笑うと、タツヒコさんの身体は突如としてむくむくと膨れ上がり、灰色の体毛が覆い始める。そのままぐんぐんと、体積を増やしていくタツヒコさんの身体。ついには天井にぶつかり、そのままドゴオォォン!と大きな音を立てながら屋根を突き破ってしまった。
「あっ、あああ……」
恐怖で腰が抜けてしまった俺は、這うようにして逃げようとするものの、そんな俺を逃すまいと、長い爪が伸びた巨大な手が俺に向かって伸びてくる。そして、がっしりと巨大な手に掴まれる俺。そのまま、軽々と持ち上げられてしまい、俺はタツヒコさんの顔の高さにまで引き上げられる。
「うぅ……ひぐ……うぐ……」
あまりの怖さに涙目になりながらも、タツヒコさんに目を向ける。タツヒコさんの身体はいつも以上に筋肉質になっており、その上をゴワゴワとした灰色の毛がびっしりと多い尽くしていた。これが、巨人狼の姿なのか……。
『へへへ……悪いなヨシキチ』
タツヒコさん、いや、巨人狼が、そう言いながら口を大きく開ける。その口の中には鋭い牙がズラッと並んでいた。
「い、嫌だ……」
俺はどうにか巨人狼の手から逃れようと抵抗するものの、ビクともしない。そのまま、大きく開いた口の上まで高々と持ち上げられてしまう。その時、ふと、視界の端に、地上で物陰からこちらを窺うような人影があるのに気が付いた。
それは、狼の頭をかたどった妙なローブを身に纏い、ジャラジャラと装飾の付いた杖を手にした、レイさんだった。
「あぁ……巨人狼様……!この村から生け贄を捧げることができて、わたくしは幸せです……」
祈りを捧げるようなポーズを取るレイさん。その顔には狂喜が浮かんでいた。
しかしそんな様子には一切目もくれず、こちらをジッと見つめる巨人狼。
『昨日喰った騎士も美味かったが、お前もかなり期待ができそうな、良い身体をしているな……。じゃ、いただきまーす!』
巨人狼の野太い声が響き、俺を摘み上げていた指がパッと開かれる。
俺の身体はヒューっと巨大な口の中に落ちていく。舌の上に着地した俺は、粘ついた液に絡め取られ、なす術もなく巨人狼の喉奥へと運ばれてしまう。やがて、大きな口がゆっくりと閉じられ、視界が暗転したかと思うと、ゴクリという嚥下音が耳に届き――
そこで俺は、ハッと目を覚ました。額には汗が浮かび、心臓はバクバク鳴っている。
俺は上半身を起こし、あたりを見回す。いつもと変わらない、俺の部屋だった。
……夢、だったのか。俺は頭をガシガシ掻いた。
なんつー夢だよ……。それだけ、今日の出来事が強烈に印象に残っているということなのだろうか。
「はぁ……」
すっかり寝るような気分ではなくなっていたが、明日仕事中に眠くなるわけにもいかない。仕方なく、俺はため息を吐いた後、体を横たえ、無理矢理眠りについた。
そしてそれからしばらくの間、俺は昼休憩の時、タツヒコさんが弁当を食っている時に妙にドキドキとしてしまうのだった。
終わり
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