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朝。ホテルのロビーラウンジで、カズキさんが巨人用の大きなソファーに腰掛けてあなたを待っていた。
「昨日は驚きましたよ。いきなり放り出すんですもん……」
『まぁまぁ! 今日は僕がしっかりエスコートしますからね!』
カズキさんはあなたの抗議もなんのその、人当たりの良い笑みで答えた。
『昨日送ってもらったメールを元に、まだ行かれてないスポットでオススメなところをいくつかピックアップしてきましたからね』
「え? メール送ったの結構夜遅かったですけど、それから考えてたんですか?」
『ええ、まぁ、こういう仕事柄、そういう場所はいくつかおさえてますから。それに俺、こういうの考えるのは結構好きなんで』
一見飄々とした感じのするカズキさんだが、こういうところは流石は記者というところなのだろうか。
『さあさあ、早速出発しましょう! いろんな所まわりますから覚悟しておいてくださいね!』
カズキさんがあなたの前に手を差し出した。
あなた達が最初に着いたのは牧場だった。
だだっ広い草地がどこまでも続いている、開放感あふれるところだった。遠くの方では、巨大なサイズの牛が放牧され、のんびりと草を食んでいるのが見えた。
ここでは餌やり体験ができるとのことらしい。既に何人かの人間のグループも集まってきている。
『では餌やり体験の方はこちらへどうぞー!』
緑色のつなぎを着た、背の高い若い巨人さんに案内されて、鶏舎へと入っていった。
「……おおっ」
あなたの目の前には、たくさんのヒヨコがいる。
黄色くてふわふわでピヨピヨ鳴いていてなんとも可愛らしい……が、どれもあなたの身長より大きかった。
あなたはヒヨコ用の餌のついた棒を持って柵の前にいるが、それを見つけたヒヨコ達が群がってくる。可愛いような、ちょっと怖いような……。
なんとか餌をあげ切ったあなたを尻目に、
『いや~、ふわふわしてて可愛いですね~』
カズキさんは片手にヒヨコを乗せて、もう片方の手に乗せた餌をやっていた。
……こうして巨人の手に収まっている姿を見れば、やっぱり小さくて可愛い気がした。
あなた達が次に訪れたのは、陸上自衛隊の演習場。
『訓練開始!』
牧場でのほのぼのとした空気からは一変、緊張感のある声が響いた。
今日はここで防災・救助訓練の公開演習が行われる、とカズキさんが教えてくれた。
あなたの立っているまわりには、倒壊したビルを模した瓦礫が散乱している。あなたは、集まった観客の中から、要救助者の役を与えられてしまった。
瓦礫の向こうに、迷彩服を着た何人かの人間の隊員さんと、巨人の隊長さんが見える。人間の隊員さんも皆遠目にも分かるほど立派な体格だったが、巨人の隊長さんは特に鍛え抜かれた身体をしていた。流石は自衛隊員、もしかしたら今まで見てきた巨人さんの中でも格段にガッシリとした体付きかもしれない。
巨人の隊長さんが一歩一歩注意深く足を瓦礫に踏み降ろし進んでいく。その都度足元にいる人間の隊員さんが、まわりに取り残された人がいないか、崩れそうな瓦礫がないか確認し、着実にあなたの元を目指す。慎重に、そして迅速な動きで救助隊は、あなたのすぐ前にある一際大きな瓦礫の前まで辿り着いた。
『ふんっ!!』
巨人の隊長さんが、掛け声と共にその大きな瓦礫を持ち上げる。瓦礫が無くなってできたスペースから人間の隊員さん達があなたの元へ駆け寄る。
「要救助者確保!」
人間の隊員さんが叫ぶと、観客から大きな歓声があがった。
『お疲れ様でした。突然の申し出にもかかわらずご協力頂き感謝します』
あなたは、巨人の隊長さんの手に乗せられ、観客席まで戻っていく。
分厚くてまめや傷の多くできた手。あぁ、この手でたくさんの人を守ってきたんだろうなぁ、と如実に感じさせる力強い手だった。
カズキさんのところまで戻ってきた。
『救助される役に選ばれるなんてラッキーでしたね!』
そういうカズキさんも、公開演習の様子が撮影できてなかなか楽しんでいる様子だった。
『さあ、次はそろそろお昼ごはんにしましょうか。僕のオススメのお店があるんです。海辺なんでここからだとちょっと歩きますけど、まぁ歩くのは僕なんで大丈夫ですよね!』
カズキさんは立ち上がって元気よく歩き出した。
『海が見えてきましたよ』
カズキさんがあなたの乗った手を少し持ち上げる。
「おお……!」
あなたの目の前にも、キラキラと太陽の光を反射して青く輝く海が広がった。
その海に沿って長く続く浜辺には、海水浴客の巨人も人間も入り混じって賑わっている。
「結構たくさん人がいますね」
『そうですねー、この辺は海水浴もそうですけど、人間さんがサーフィンするのにもいい条件が揃ってるらしいですよ』
「巨人さんは、サーフィンはしないんですか?」
『波が小さすぎて、人間さんのようには波に乗れないんですよねー。その分ウィンドサーフィンとかシーカヤックとか、シュノーケリングやダイビングなんかは巨人にも人気ですよ』
なんて巨人さんのマリンスポーツの豆知識を解説してくれた。
ふと、ズシン、ズシンと向こうから巨人のライフセーバーが歩いてくるのが見えた。
こんがり日焼けした肌に、ライフセーバー用の真っ赤な水着が眩しい。
ビーチにいる巨人の中でも一際存在感があって、ついつい視線を引きつけられてしまった。
あんな巨人さんが見守ってくれていたら安心してビーチで過ごせるだろうなぁ、と思いつつあなたは巨人ライフセーバーを眺めていた。
『ここでお昼にしましょう!』
カズキさんは、浜の前に建つレストランの前であなたに声をかけた。青いタイルを張り合わせた外壁の、キレイなお店だった。
席に通され、メニューを眺める。
『ここはピザがオススメなんですよ。もちろん人間さんサイズのものもありますけど、どうします?』
「あ、じゃあそれで」
確かに通された席のすぐ前には、大きなドーム型の窯があった。その横で巨人さんが具材をトッピングして、ピザピールに乗せて窯に入れている。
注文したものが来るまでの間、あなたとカズキさんは昨日の感想をまとめたメモや写真を見ながら待つことにした。
『ふーん、なるほど、人間さんならではの視点ですねー』
カズキさんがメモや写真を見ながら言う。なかなか好感触なようだった。
『どうでした? 今日午前中行ったところは』
「面白かったです。なかなか普段体験できないようなことができたと思います」
『それは良かった! 午前は山の方だったんで、午後は海の方を観光していきますよー! ……あと個人的にちょっとお願いしたいことが……』
「?」
『お待たせしました』
カズキさんが何か言いかけた時に、注文したものがテーブルに届けられた。
『まあ、それは後でいいや。冷めないうちにいただきましょう!』
カズキさんが大きな一口でピザにかじりついた。
『んー!やっぱり美味いなー!』
そんな様子をしげしげと見つめていると、カズキさんと目が合った。
『ん? どうしました?』
「い、いえ、なんでも……」
昨夜もホテルでの夕食で遠目に巨人さんが食べ物を口に運んでいるところを見かけたが、こうして間近で見るとはるかに迫力がある。しどろもどろになりながら、カズキさんの口の中に、自分よりも大きなピザの塊が消えていくのを眺めていた。
ドキドキの昼食を終えて、あなたとカズキさんは海辺の散策に戻る。
「カズキさん、あそこのお店は何ですか?」
『あー、あそこは、海に流れ着いたものとか、人間さんの不要になったものとかをアクセサリーや雑貨に加工してる工房兼ショップですね。入ってみます?』
「そうですね……せっかくなんで」
『いらっしゃいませ』
店の奥から挨拶が聞こえた。低くて渋い感じの声だった。奥の方を覗くと、白髪の混じった、穏やかな雰囲気の中年の巨人さんがいた。ここの店主さんのようだ。
木目調の落ち着いた店内では、巨人サイズのネックレスやキーホルダー、装飾品などが並べられていた。
人間サイズのサーフボードや、錨、浮き球なんかが加工されて巨人のアクセサリーになっているのが面白い。
あなたたちの他に、人間と巨人の先客もいた。こちらに背を向けてふたりして商品を見ているようだ。
「これとかキョウイチに似合うんじゃない? あ、あっちのも似合いそう!」
『う~ん、こういうのは俺にはよく分かんねぇなぁ……。レイが選んだものにまかせるよ』
商品を眺めていた巨人が振り返る。
「っ……!」
あなたは思わず息が詰まってしまった。振り返った巨人はタンクトップを着ていて、ガタイが良くて、三白眼だった。一言で言うと、なんだか恐そうな雰囲気だった。
でも
「ねーねーこれもカッコイイよーつけてみてよー」
『ん……こんなの普段つけないからちょっと恥ずかしいな……』
「たまにはつけてみたらいいじゃん! 絶対似合うよ!」
人間の人に急かされるようにアクセサリーを身に着けさせられていたりして、ちょっと照れくさそうなのがなんだか微笑ましかった。
『あ、この辺人間さんサイズの商品も置いてありますよ』
カズキさんが近くにあった商品棚を指しながら声をかけてきた。
「本当ですね」
あなたが近づいてみると、大きめのトートバッグや鞄が
並べられている。脇には解説が書かれていた。
「えーっと……“使われなくなった人間のヨットの帆を再利用してバッグを作りました”ですって。へぇー、珍しいですね」
『そうですねー。こんな小っちゃいカバンも、あの店主さんが1個1個手作りで作ってるんですね。器用な人だなぁ』
カズキさんが、鞄のひとつを摘みあげて物珍しそうに眺めた。確かに、人間にとっては担げるサイズの鞄でも、今カズキさんが摘み上げてる指と比べてみると、まさにミニチュアのような大きさだ。
……値段もそこそこするみたいだけど、せっかくこの街で何か買って帰るなら、どうせなら巨人さんが作ったものの方が思い出になりそうだな……とあなたは思った。
元になった生地によってそれぞれ色や柄が違うようなので、好みのものも見つかりそうだ。
「……よし、これにしよっと」
しばらく考えて、あなたは買うカバンを決めた。
『おっ、その鞄買うんですか?』
「はい。せっかくなのでこの街に来た記念に……」
『いいですね! 俺も何か買おっかな~』
カズキさんが飾られてる商品をあちこち見る。
『おっ、コレにしようかな』
カズキさんが手を伸ばしたのは、巨人用のブレスレットのコーナーだった。
カズキさんが手に取った物は、布を編んで作られたブレスレット。あなたが選んだカバンと同じ布が使われているようだ。
『へへっ、俺も今回の旅の記念ということで』
カズキさんは照れたように笑いながらブレスレットをつけた腕を見せてくれた。
次にあなた達がやってきたのは、ショッピングモール。
人間用の店舗がずらりと並んだフロアが、何階層にも連なっている。そのすぐ横の吹き抜け部分を、巨人の客が行き交っていた。
吹き抜けのショッピングモールは共存地区以外の場所にもたくさんあるが、こんな光景は共存地区ならではだな、とあなたは興味深く見回したり、写真に撮ったりした。
そんなあなたを、カズキさんはなぜか困ったような表情で見下ろしていた。
『あー……人間さんのフロアでお買い物とかされたいですよねー……。でもその前に! ちょっと付き合ってもらえません?』
「別に買い物は後でも構いませんけど……」
『それなら良かった! ではこちらに行きましょう!』
なんだか嬉しそうにカズキさんは歩き始めた。
カズキさんに連れられて入ったお店は、フードフロアのスイーツショップ。
「……うおお」
巨人のウェイターさんによって運ばれてきたものを見て、あなたは小さく声をあげた。白いプレートに乗せられて出てきたのは、一軒の家だった。それも、ビスケットや飴、チョコ等でできたお菓子の家だった。
『おー、これこれ! これが食べたかったんですよー!』
カズキさんがニコニコしながら言った。
『いやー、実は俺結構甘党でして……』
ニコニコ笑顔から、照れたような顔になってポツポツと話し続ける。
『前からこの店でこれ食ってみたかったんですけど、このメニュー、巨人と人間のペアでしか注文できなくて……。人間の同僚に頼んだりもしたんですけど、甘いもの好きじゃないって断られてしまって……。いや~実物が食べられるなんて嬉しいなー! あ、でも一応取材でもあるんで食べる前に撮影しておきましょうね。サイズ感分かるようにしたいので、扉の前に立ってもらえますか?』
カズキさんに促され、クッキーを型抜きしてできた扉の前に立つと、撮影会が始まった。
しばらくカズキさんがパシャパシャと取り続けると、
『あ、中からの撮影お願いしてもいいですか?』
と言われたのであなたは家の内部に入ることにした。
外ほど明るくはないが、型抜きされた扉や窓から光が漏れてくるので、見えない程暗いわけでもない。
家の内部も様々なお菓子でデコレーションされていて、甘い空気が漂っていた。
あとでカズキさんにも見せてあげよう、とあなたも写真に収めていく。しばらく撮っていると
『中はどうですかー?』
外からカズキさんが声をかけてきた。
「中もお菓子だらけでキレイですよ。あとで見せてあげますね」
『それはありがとうございます! あの~、そろそろ食べても……?』
「あ、はいどうぞお構いなく」
『では早速! 屋根はがしちゃいますねー』
パキっ!っという音がして、あなたの頭上から光が入って来る。見上げると、天井に空いた穴から、折ったクッキーを持ったカズキさんが見えた。カズキさんはその持っているクッキーをパクッと頬張って、幸せそうな表情を浮かべた。
『う~ん、美味しい! これなら何個でもいけちゃいますね』
そう言いつつカズキさんは更に屋根の解体に取り掛かる。あなたはその迫力に圧倒されつつ、少し後ずさりした。
……これで巨人さんが食事しているところを見るのは3回目だが、これまでの中で一番迫力のある光景だな、とあなたは思った。
あなたが見つめていることにハッと気が付いたカズキさんが
『あ、俺ばっかりすみません。 お好きなだけ食べてくださいね。残った分は俺が責任を持って食べますんで!』
照れ笑いを浮かべながら言った。
……先ほどから時々、カズキさんの一人称が「僕」から「俺」に変わってきている気がする。少しは打ち解けてきた、ということかな?
ショッピングモールで人間エリアでの買い物も済ませ、再び浜辺まで戻ってきた。
少し日が傾いてきていて、空が少しオレンジがかってきている。
『さあ、本日最後のアクティビティはこちらですよ!』
カズキさんが鯨の絵が描かれている看板を指し示した。
「ホエールウォッチング?」
『そう! この辺はホエールウォッチングでも有名なスポットなんですよ。もうすぐ出航の時間なんで行きましょう』
そう言ってカズキさんは港の方へ歩いていく。そこには大きな巨人用のシーカヤックが停泊していた。
「へー、カヤックで行くなんて珍しいですね」
『あぁ、人間さんの乗り物はエンジンが付いたものが多いですよね』
「巨人さんの乗り物には多くないんですか?」
『あまりないですねー。船はエンジン付きのも一応ありますけど、それ以外の乗り物だとエネルギーの割りに輸送効率が悪くて。もうね、大体の巨人は自分で漕ぐなり走るなりしちゃった方が早いって考えちゃうんですよね。だからこの辺に住んでる巨人はともかく、共存地区外から来た巨人には人間さんの自動車とか電車とかは物珍しく映るんですよ』
なんて巨人さんの乗り物事情を話しつつ、カズキさんはカヤックに乗り込んだ。
先に乗っていた客は人間の観光客グループが5、6組で、巨人はカズキさんとカヤックを漕ぐ人だけだった。
『それではそろそろ出発しますよー!』
カヤックを操縦する人……こういう場合でも船長さんって呼んだらいいのかな? ともかく船長さんが大きな声で乗客に呼びかけると、でっかいオールで漕ぎ出して、港を離れていった。
一漕ぎ毎に盛り上がる筋肉。波なんかものともせずガンガン進んでいく。
さっきカズキさんに聞いていた通り、やっぱり巨人さんは自分の力を使って移動するのが性にあってるんだな、ということを物語っているかのようだった。
しばらくして、だいぶ沖の方までやってきた。
夕日が水面にキラキラと反射していて眩しいけれど、あたり一面オレンジに染まっているのがキレイだった。
船のすぐそばから黒いものが浮かび上がってくる。鯨だ。頭の天辺から、潮を吹き上げる。
続いて船のまわりのあちこちから何頭もジャンプするのが見えた。勢いよく飛び上がり、水しぶきを上げて着水する様子は、なかなか見ごたえのあるものだった。
カズキさんが写真を取りながらぽつりと
『なかなか迫力のある光景ですね~。
品種改良された鶏や牛はともかくとして、世界最大級の野生生物がこんなに間近で見られるなんてそうそうない機会ですからねー』
鯨よりも更に大きい生物である巨人さんの口からも、そんな感想が出るのか、と思うとなんだか面白かった。でも、巨人さんでも野生動物のダイナミックな姿に心動かされるのは人間と一緒なんだな、と思うとなんだか嬉しかった。
『こんばんはー。テルアキさん』
すっかり日が沈んだ頃、カズキさんが挨拶しながら入ったのは“居酒屋てる”と暖簾のかかったお店だった。ここもカズキさんのイチオシのお店とのことらしい。
『いらっしゃい、カズキさん』
カウンターの向こうに立っている巨人さんが挨拶を返した。
店の中は、巨人のスケールでは小ぢんまりとしているが、温かい照明に照らされ、美味しそうな匂いが漂ってくる、良い雰囲気のお店だった。
『あれ、カズキさん! それに昨日のお客さんも』
カウンターに座っていた、3人の巨人のうちの1人がこちらに振り向いて言った。焼けた肌にオレンジの瞳……あ、巨人タクシーの人だ、とあなたは思い出した。
『やぁ、タクトさん達。今日もここで飲んでるんですね』
『えへへ、そうなんですよ。あ、よかったらこっちへどうぞ』
と隣に空いていた席に誘ってくれた。カズキさんがその席に座り、あなたをカウンターの上に乗せる。すると人間の店員さんが「こちらの席をどうぞ」とあなたの為に人間サイズの椅子とテーブルを移動してきてくれた。
『人間のお客さんにはまだちゃんと自己紹介してませんでしたよね。俺はタクト。巨人タクシーやってる時に会いましたよね』
タクトさんは、あなたにニコッと笑いかけた。
『んでもってこっちはオオヒト急便で働いてるタクマ』
『こんばんは』
タクトさんが、隣にいる巨人さんに手を回して言う。
つんつんと逆立った髪に、水色の大きな瞳が特徴的な巨人さんだった。その顔を見ていると、おや?とあなたは何かが引っかかった。
この巨人さんは、昨日見かけた気がする。トラックを抱えて道を歩いていたのを覚えている。
それにこうしてよくよく見ていると、それとは別に前にもどこかで見たことがあるような……。
続いてタクトさんは、タクマさんの隣にいる巨人さんを紹介してくれた。
『こっちは街やビルの清掃をしているソウタ。2人とも俺の飲み仲間というか、ランニング仲間というか』
『どうも』
黒髪に、鼻のところにちょっとそばかすのある巨人さんだった。
『実はこのお三方と、この店のテルアキさんにもうちの雑誌に出てもらったことがあるんですよね』
カズキさんが補足するように言った。
その言葉に、あなたは見覚えの原因に思い当たった。
「あっ! もしかしてタクマさんって、前にGIGAMAGAの“働く巨人インタビュー”シリーズに出てた……」
『うわっ、そんな前のこと覚えてらっしゃるんですか? うわーちょっと恥ずかしいですね……』
タクマさんは、瞳の大きな顔を赤くして呟いた。
そうそう、言われてみれば、この瞳の大きな童顔とギャップのある鍛えられた体付きが特に印象に残っていたので、覚えていたのだった。
雑誌に載っていた生の巨人さんに会えたなんて感激だ。
タクトさんも昨日取材を受けたことがあると言っていたし、ソウタさんやテルアキさんも、雑誌のバックナンバーを探したら見つけられるかもしれない。
『人間のお客さんは、取材でオオヒト区の外から来たって言ってましたよね』
『へー、そうなんですか?』
タクマさんが気を取り直したように尋ねてきた。
「はい。雑誌の企画に応募して……」
かくかくしかじか、とあなたは巨人さん3人にこれまでのことを話した。
『へぇ~面白そうですね~』
『そんな企画があったんですね』
タクマさんとソウタさんも、タクトさんと初日に会った時と同じような感想を持ったようだった。
『今日も色々なところ観光してきましたけど、どうでしたか? この2日間オオヒト区を旅してみて』
カズキさんも尋ねてきた。
改めて振り返ってみると、この2日間で体験したことはとても濃密に感じられた。
オオヒト区に来るまでは、こんなにたくさんの巨人さんを見たり、話したりできるなんて想像もしていなかった。
実際に触れ合ってみると、なんというか、巨人さんってただ身体が大きいだけじゃないんだな、と認識することが多かった。
タクトさんは道中フレンドリーに話してくれたし、ホテルマンさんも各飲食店のウェイターさんも工房の店主さんも、とても丁寧に接客してくれた。自分よりも何倍も小さい相手にもそんな風に接することができるなんて、身体だけじゃなく度量も大きいというか、心まで大きい人が多いんだな、と感じされられる場面だった。
(警官さんは何だかぶっきらぼうな態度だったけれど……今思えばそれはそれで貴重な体験ができたような気がする)
牧場の巨人さんはあれだけの動物を大切に育てているようだし、人間の小さな小さな園児を連れている巨人さんまでいた。傍目に見ていても、大きな愛情を注いでくれる巨人さんなんだろうな、という印象のある温かい雰囲気があった。
散策中見かけたレスキュー隊員さんや自衛隊の隊長さん、ライフセーバーさんなんかは、日頃から人の命を守るためにトレーニングしていることがありありと分かるような体付きをしていた。
ほんの少しの間しか見られなかったけれど、身体の大きさに見合った包容力のある人なんだろうな、ということが伝わってくるかのようだった。
それに、解体工事でビルをパワフルに破壊する工事現場のおじさんや、勢い良くパドルを漕ぐカヤック乗りの巨人さんの、力強くて豪快な姿もカッコいいなと感じた。
思い出すままに話していくと、カズキさんも嬉しそうな笑みを浮かべた。
『それはなにより。巨人のこと、気に入ってもらえて良かったです。俺の仕事って、巨人や街のことを知ってもらうことだと思うから。
それに共存地区って楽しいところでしょ? それも体感してもらえて嬉しいです。俺も初めて来た頃を思い出すなぁ……。でも長いこと住んでるとそういう新鮮なことに気付く機会も減っていちゃって』
カズキさんがしみじみした感じで言う。
その口ぶりだと、カズキさんも元は共存地区外で住んでいたのかな。
……カズキさんにも最初こそ振り回されたものの、お世話になったし、何かお礼というか恩返しができないかな、と考えていた時、
『だから、今回の記事はまた新鮮な気持ちで書けそうで面白くなりそうです! 今回取材を手伝ってくれたのが、あなたのような人でよかった』
その言葉を聞いて、あなたは改めてここまで来た理由を思い返した。自分にできることは、この2日間体験してきたことを素直にインタビューで答えることだと感じた。
実際に見て触れて感じたことはいくらでもある。それを少しでも多く話せたられたらいいな、と思う。
巡ってきた街のことや、出会ってきた巨人さん達の魅力をいっぱい伝えられるようにがんばろう、とあなたは心に決めた。
そんなあなたを見透かしたように、カズキさんはニッコリと微笑んでくれた。
『明日からのインタビューも、よろしくお願いしますね!』
終わり
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